事態は時に急展開する

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2004年04月15日

  • 小林 卓典

昨年の今ごろは日経平均が8,000円を割り込み、中国脅威論とも相まってデフレ予想は根強く、世界的にもグローバルデフレの可能性が喧伝されるなど、不安定な雰囲気に満ちていた。しかし、その後、世界的に株価は上昇、国際商品市況は急騰、久々に発展途上国を巻き込んで世界経済は回復し、事態は急速に改善していった。

日本では金融不安が遠のき、かつての日銀のダム論よろしく企業収益の回復が設備投資拡大につながり、さらに個人消費へと内需拡大のすそ野が広がっていった。1月時点の公示地価によって、東京都区部のみならず主要都市の一部でも不動産価格の反転が確認され、資産デフレにもようやく終着点が見えつつある。景気回復の頑健性がいよいよ増してきたという状況の中で、持続的な外国人投資が日本株を押し上げ、3月からの日本市場は独歩高といった様相さえ呈している。

このように過去1年で状況は一変したが、この間一貫して変わらなかったものは超金融緩和と低インフレという日米欧に共通した組み合わせであった。さらに各国に共通した雇用改善の鈍さという事態が、世界的な超金融緩和状態には当面変更はないだろうという予想を生じさせてきた。

特に雇用回復が著しく遅れている米国では、このところその原因をめぐって大きな論争が起こっているが、生産性上昇と雇用創出が両立したITバブル崩壊前の状況とは打って変わって、生産性の上昇と雇用の喪失が並行する事態となっている。ドル安とエネルギー・原材料価格高騰にもかかわらず最終製品価格の下落が続いているため、FRBは金融引き締めの大義名分をなかなか見いだすことができないでいた。

日本にとってバブル崩壊後3度目となる今回の景気回復の持続性について、そのリスクは年後半から減税効果が薄れる米国経済の減速による外部環境の悪化とするのが今のところ一般的な意見のようだ。しかし、その米国でも3月の雇用統計において30万人超というブッシュ政権下では最大の非農業部門の雇用増加が生じた。

このことから直ちに、ジョブレスは終わり、米国経済は万全という見方を取るのは早計かもしれない。ただ半年後も現在と同じように世界的な低インフレと超金融緩和の共存が可能な環境なのかどうか。むしろ米国のリフレ策Ⅰがようやく年後半の減速説を打ち消すように効き始めたことから、金融政策は不変という想定を置くことはどうも許容し難い情勢となってきたように思われる。このような情勢の転換は、日本の景気回復の持続性に係るリスク低減を意味し、日本における金融環境の変化を伴った景気サイクル長期化の始まりととらえるべきではないだろうか。

Ⅰ) リフレとは、リフレーションの略で、デフレ下において、財政支出の拡大や金融緩和を進めて景気を浮揚させることをいう。

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