金融所得課税一元化の論点~損失の控除は幅広く認めるべき~

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2004年03月26日

  • 吉井 一洋
金融所得課税の一元化に向けた議論が本格化している。政府の税制調査会では、夏頃に方向性を示す予定で議論している。経済産業省でも産業構造審議会内の小委員会で検討を行っており、4月末に報告書をまとめる。さらに、金融審議会でも下部組織として「金融税制に関するスタディー・グループ」が立ち上げられ、昨日(3月25日)第一回の勉強会が開催されるなど、様々なところで検討が行われている。

金融所得課税の一元化とは、様々な金融商品から生じる損益を個人の投資家が通算し、均一の税率をかけて税額を算出する方法をいう。その主要な目的は、金融商品間で税負担の差が無い簡素な税制を導入することと、リスクマネーの供給を促進することにある。

後者のリスクマネーの供給の観点からは、損失の控除が大きな問題となる。現行税制では、投資がうまくいって利益が出た場合は課税するが、損失については控除を認めないか、あるいは制限している場合が多く、これではリスクを負った投資を行うことは困難である。利益に課税する以上、損失の控除も幅広く認めて、国がリスクを分担すべきである。

しかし、その一方で、譲渡損に関しては、譲渡のタイミングを投資家が選択できるため、控除に制限を設けるべきという意見もある。控除を全額認めると、投資家は損失を前倒しで実現し、利益の実現を遅らせる可能性があるというのがその理由である。この考え方には、次のような点で問題があると思われる。

◇ 譲渡損を実現した場合は、損益通算で税額が軽減されたとしても、回収できるキャッシュ・フローは当初の投資額より減少する。レバレッジド・リースなどのように、減価償却費など、キャッシュ・フローの減少を伴わない損失を意図的に発生させる節税スキームとは区分して考えるべきである。
◇ 譲渡益の実現を先送りした場合、投資家はその後の下落リスクも同時に負う。したがって、投資家はむしろ利益は早めに確定し、譲渡損の実現は回復するまで遅らせると思われる。行動ファイナンス論などでも、そのような考え方が示されている。
◇ 譲渡損益をいつ実現するかという選択権がある分、株価などの資産価格は高くなっており、その分譲渡による所得も増加すると思われる。


譲渡損などの損失のみを申告して、他の金融所得を申告しない可能性も指摘されている。あるいは利子などの源泉徴収のある所得について、譲渡損などの範囲内で架空の利益を申告し、納めてもいない源泉税の還付を求める可能性もある。したがって、損益通算を認めるための条件としては、通算の対象となる金融所得について、支払調書などの法定資料の提出と、納税者番号制度による名寄せを求めていくことが不可欠であろう。

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