日本の金融・経済教育の進め方

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2003年12月22日

  • 土屋 貴裕
金融規制の緩和に伴って新しい金融取引・商品が増え、一方で金融機関の破綻も増加した。消費者はより多くの選択肢を手にすると同時に、多様なリスクへの対応や、自らの選択とその結果に対する自己責任が従来にも増して求められることになった。消費者が自己責任を適切に果たしていくためには、自主的な選択能力を高めていくこと、つまり金融・経済に関する消費者教育が必要不可欠となりつつある。しかし、日本の実状を一言で言うと、「金融や経済への知識は必要だが不足していることを認識」している状況だ。

金融・経済教育の先進国として米英の例をみると、米国では、NPOを主体とした長い歴史があり、英国では、公的部門が民間諸団体と協力しつつ、近年、急速な教育体制を整えてきた。日本でも公・民ともに取り組み始めているが、消費者一般へ教育の中身も活動そのものも浸透していないと言える。これは、(1)パンフレットや講演等の活動が多く、もともと金融や経済へ関心のない人には効果が得られない、(2)制度や仕組みといった知識の話が多く、体系立てた継続的な教育システムが不足、(3)成人向けでは知識のバックグラウンドが不足(小中学生時代の教育での基礎がない)、などがあげられる。

米英の例を踏まえると、前提となるべき原則は、“消費する主体”が人生を豊かに送るため、「経済・金融の知識」を常識(literacy)として、いわば生きていく智恵を獲得することである。「金融システムや証券投資についての教育」という狭い意味ではなく、「実際の経済社会で生きていくための教育」という広い意味で捉え、小中学生から順を追って、経済教育、金融教育、投資教育と、継続的体系的な理解が必要であろう。

現在の日本の立ち後れを前提とすると、優先的に行うべきは、先生(教員)向け教育と多様なコンテンツ(カリキュラムや教科書)の開発である。時間的・資金的制約から公的部門の関与は重要だが、政策的意図が強まり画一的になることは避ける必要がある。そのため、主役としては多様性のあるNPO等、民間部門が期待されるところである。公的部門は、教育の体系化に必要な段階別スタンダードをおおまかに提示し、NPOと民間金融機関が公的部門と協力していくような提携関係が求められよう。

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