中期的な方向性を失う韓国経済

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2003年12月15日

  • 五百旗頭 治郎

韓国経済が2つの意味で進むべき中期的な方向性を見失っている。ひとつは、引き続き輸出主導型の経済成長を目指すのか、内需主導型への構造転換を図るのかという点が定まっていない。もうひとつは、日本・中国というアジアの2経済大国の狭間でどういう役割を演じていくつもりなのかが不透明である。韓国政府が推進する「東北アジアのビジネスハブ」構想には無理があるし、そのために不可欠な外資導入に対する国民の間のコンセンサスも成熟していない。

筆者は、2004年の韓国経済は5%台の成長率まで回復すると予想している(2003年は+3.1%予想)。しかしながら、それは多分に輸出拡大という外需主導によるものであり、韓国国内に暮らす人々の景況感はGDP成長率ほど回復しないだろう。また、経済回復の持続性にも疑問が残る。グローバルITサイクルに大きく左右される外需が再び下落に転じた場合、主要エレクトロニクス輸出製品への依存度の高まっている韓国経済は再び減速する可能性が高い。早ければ2005年中にも経済再減速となるリスクが高い。

韓国経済は日本が90年代に苦しんだ経済構造的な課題に直面しているのだ。高貯蓄率を続けながら持続的な高成長を達成するためには企業による旺盛な投資が必要となる。日本もバブル経済が崩壊するまではそうして高成長を維持してきたし、韓国の経済危機前の高成長も同じメカニズムであった。しかし、高度成長期が終了した両国では企業の投資余地は縮小する。先行投資をすれば後から必ず需要がついてきた時代は終わり、企業は投資収益率を事前に慎重に吟味しなければならなくなった。韓国の経済活動人口の成長率は年1%程度まで鈍化してきており、先進国化にともない今後は労働生産性上昇スピードも低下が避けられない。これらは、まさに日本がバブル経済崩壊後に直面し、未だに解決できていない課題である。「経済成長=付加価値の増加」は「資本投入量の増加」×「労働投入量の増加」×「生産性上昇」で説明できるが、「労働投入量」と「生産性」に期待できない現状では「資本投入量」を増やすしかないと言える。

「資本投入量の増加」のために韓国が目指すべき方向性は、(1)内需主導型への経済構造転換と(2)外国資本・人材の導入である。内需主導型への経済構造転換か外資導入が成功しない限り、韓国経済は世界ITサイクルの波間をただよう小船のように、ITサイクル次第で大きな好不調の波を繰り返すことになろう。しかし、不幸なことに、政治的基盤が弱く余裕のない現政権は大局観に立った経済運営ができていない。中長期的な実現可能な経済ビジョンを作ることより、来年4月の総選挙で如何にして国会議席数を伸ばすかどうかが、盧武鉉大統領にとってはより喫緊の課題だからである。総選挙後には、与党の勝利・敗戦にかかわらず、盧武鉉政権が持続的な消費刺激策に積極的に取り組むことを期待したい。

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