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公的年金改革と株式市場

2003年12月11日

壁谷 洋和

足元で議論が本格化する公的年金改革。年金財政の立て直しのために、保険料の引き上げや年金給付の削減、さらには積立金の取り崩しといった対応が不可避の状況となりつつある。このような大幅な制度の見直しは、加入者や企業、国への負担増を迫るという直接的な影響ばかりでなく、株式市場での一プレーヤーたる公的年金の運用姿勢にも変化をもたらし、市場参加者に対して間接的な影響をもたらす可能性がある。今回の年金改革が株式市場とどのような関わり合いを持つか考えてみよう。

2001年度の財投改革によって、公的年金積立金の大蔵省 資金運用部(現財務省 財政融資資金)への預託義務が廃止されると、積立金はその全額が市場運用の対象となった。ただ、全額自主運用移行による激変緩和のために、2008年度に向けて徐々に市場運用額を増やしていく措置が取られ、現在はその移行期にある。また、全額自主運用への移行が開始された段階で、将来的なポートフォリオの“理想形”として、「基本ポートフォリオ」と呼ばれる資産構成割合の目標値が示された。そこでは、国内株式の組み入れ比率を2008年度末までに12%まで高めるという内容が盛り込まれている。公的年金の積立金を150兆円と仮定すると、2001年度末に7兆円弱しかなかった国内株式の運用残高は、2008年度末には18兆円程度まで増加する計算となる。1年あたりで考えると1.6~1.7兆円分、国内株式の運用残高が積み上がることになるのである。こうしたことから、現在の株式市場では、公的年金が今後数年に渡ってコンスタントな買い支え役になるとの見方が、コンセンサスとなっている。

株式市場へのインパクトを考えた場合、年金改革の一つの焦点となるのは上述の「基本ポートフォリオ」に関する見直しの有無であろう。「基本ポートフォリオ」は必ずしも未来永劫、不変とされるものではなく、5年に1度の年金改革の段階で見直しの議論を持つことが義務付けられている。保険料の引き上げと給付の引き下げによって、年金財政が健全化すれば、高いリスクをとってまで運用収益を追求することの必要性は薄れる。そのため、今回もし「基本ポートフォリオ」の見直しが行われるとすれば、それは株式のようなリスク資産のウェイトの引き下げという方向に働く可能性が高い。そうなった場合には、引き下げの度合いにもよるが、公的年金に対してまとまった資金の配分は期待できなくなるのである。

2003年は厚生年金基金の代行返上が市場の話題を集めたが、公的年金の運用計画の変更は返上資産の再投資の面でも問題となってくる。現金での代行返上を想定して市場から吸い上げられた資金は、最終的には公的年金の運用の枠組みに入る。このうちのいくらかが、株式市場に再投資されるわけだが、一般の厚生年金基金の株式比率と比較しても低い12%からさらにウェイトが引き下げられることになれば、一連の代行返上の前後で年金による株式の保有は著しく減少することになる。持ち合い解消が進展する中、年金のような機関投資家に金融機関に代わる投資主体としての役割を期待できないのであれば、日本の株式分布は極めて歪んだものとなってしまわないだろうか。市場の機能に支障を来す前に、行政に対しては早急な次の一手が望まれる。

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