重要な役割担う新興市場

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2003年12月10日

  • 村田 素男

年末に当たって2003年の日本の株式市場を振り返ると、6月以降に活況を呈したことは言うまでもないが、久々に新興市場が脚光を浴びたことは特筆に値しよう。

発行市場をみると、新規上場企業数は新興三市場(ジャスダック、東証マザーズ、大証ヘラクレス)で12月末までに101社(予定)で、2002年の99社を上回った。また、初値騰落率(=<初値-公募価格>÷公募価格×100)がマイナスの企業は、11月までに上場した81社ベースでは9社に止まり、6月以降でみるとわずか1社である。前半まで株式市場が低迷していたこともあり、公募価格が低めに設定されたケースも多かった模様だが、該当する81社の初値騰落率をみると平均58%、最高300%にのぼり、旺盛な投資家の買い意欲を示している。流通市場をみると、株価指数が最も整備されたジャスダックで、5月末から11月末までの半年間でジャスダック指数が46%上昇した。

新興市場が活況を呈している要因としては3つ挙げられよう。まず、真っ先に注目すべきは新興三市場での好調な企業業績である。2003年9月期の該当する上場企業の連結経常利益は前年同期比56%増(日本経済新聞社調べ)となった。これは東証1部上場などの大企業の増益率17%を大きく上回る。次に、新規公開銘柄が個性的で、市場の魅力を高めたと言えよう。企画した本を次々にベストセラーにする名物編集者が独立した出版社「幻冬舎」、風力発電の「日本風力発電」、インターネット関連では価格比較サイトの「カカクコム」、大学発ベンチャーのバイオ企業「オンコセラピー・サイエンス」、などである。さらに、インターネット関連銘柄を代表するヤフーが10月28日にジャスダックから東証1部へ一気に「昇格」したことで、「ネットバブルの崩壊」による淘汰を生き抜いた楽天など、インターネット関連の新興企業に対する期待感をより健全な形で高めたと言えよう。

しかし、新興市場の銘柄はどうしても「玉石混合」となりがちで、様々な問題を抱えている。2003年を振り返っても、粉飾決算や暴力事件に関連した問題、業績予想の大幅な下方修正をして投資家の失望を買ったケースも散見された。東証マザーズが上場廃止基準を強化するなど、上場企業の質を重視する姿勢を示してはいるものの、新興市場がより成長性を重視した上場基準を採用しているため、市場参加者自らがリスクに対して意識を高めてゆく必要がある。

課題も抱えた新興市場であるが、今後の日本経済の新陳代謝には不可欠な存在である。政府が国際競争力の要として財政資金を投入するナノテク、バイオなどを中心とした最先端の産業振興の受け皿として、新興市場がこれまで以上にスムーズに機能しなければならない。2003年を振り返ると、「1円での会社設立」や「エンジェル税制の拡充」など、これまで他の先進国と比較して困難と言われた起業環境に転機が訪れている。また、国立大学の独立行政法人化を控えて、大学発ベンチャーや産学連携がこれからの新興市場の大きな柱になってゆこう。こうした新たな起業の流れが押し寄せる前に、新興市場がより洗練された存在として機能することが望まれよう。

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