繰延税金資産は金融機関だけの問題か
2003年12月04日
2003年9月中間期から、主要行を対象に、繰延税金資産の算定根拠の開示が始まった。繰延税金資産の計上に関しては、既に会計士協会が定めたルール(繰延税金資産の回収可能性)が存在するが、そのルールの運用が今後の課税所得の見積りに依存しているため、必ずしも有効に機能しているとは言い難い。
5月のりそな銀行、そして今回の足利銀行の件においても、公的資金注入の引き金となったのは繰延税金資産の取崩しであった。繰延税金資産は、将来の課税所得・納税額が減少することを見込んで計上するものであるため、その計上には、将来の課税所得の発生が大前提となる。金融業界の現状を反映し、金融機関の場合は一般に最長5年分の課税所得の範囲内で繰延税金資産を計上できることとされているが、りそな銀行の場合は、課税所得の見積期間を5年から3年に短縮することを監査法人が求めた。足利銀行の場合は5年から0年、つまり繰延税金資産全額の取崩しを求めたのである。
もちろん、こうした監査法人の対応には相応の裏付けがあるのであるが、「なぜ繰延税金資産の取崩しが必要となるのか?」に対する明確な答えを、当事者以外の者が得られることは少ない。一般に当事企業の外部者は、それまで適正な資産とされていた繰延税金資産に価値がなくなったことを、突然知らさせるのである。
こうした問題点を踏まえ、今回の繰延税金資産の算定根拠の開示という試みはスタートしたわけであるが、開示対象企業は主要行とされており、いかにも狭すぎる。既に、「地銀も開示対象に含めるべき」との意見が出ているが、繰延税金資産の問題は必ずしも金融機関に限ったものではない。2003年3月期には、フジタが繰延税金資産の取崩しを行った結果債務超過に陥っているし、その後も繰延税金資産の取崩しが相次いでいる。また、あまり認識されていないが、繰延税金資産は配当可能利益の一部ともなっている。甘い見積りにより過大な繰延税金資産を計上すれば、配当可能利益にも影響を与えるのである。
今後、事業会社も含めた公開企業全体に繰延税金資産の算定根拠の開示を求め、繰延税金資産に対する外部からのチェック機能を強化すべきである。
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齋藤 純
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