利上げを足がかりに高値更新中の豪ドル

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2003年11月20日

  • 山田 雪乃

豪州では11月5日、世界に先駆けて25bpの利上げが実施された。英国でも11月6日に25bp利上げされている。豪州で金利が引き上げられた背景には、低金利下で過熱感が薄れない住宅市場への警戒がある。与信は6月以来前年比14%程度で推移、中でも住宅向け与信は前月比+1%台後半から8月は前月比+2.1%へ、個人向け与信も7月の+0.8%から8月は前月比+2.2%へ加速した。住宅価格は4-6月期も前年比17.3%上昇し90年代初めの約2.5倍へ跳ね上がっている。「金融引締めが遅れた場合、拡大しすぎた与信が景気を急激に悪化させる」リスクを早い段階で軽減したいとの意図が働いたと思われる。

では、豪州の住宅市場はバブルなのだろうか?-住宅市場はバブルではない、というのが豪州国内における大方の見方である。移民の純流入による人口増(年間約11万人で総人口を約0.5%増加)や、核家族化(一世帯あたり人数は90年代初めの3.3人から2002年は2.8人へ)、ライフスタイルの変化による都心回帰など、実需そのものが住宅投資の増加を牽引しているためである。また、オーストラリア人は一生のうち平均7回は住宅を買い替えるといわれており、住宅市場の流動性は非常に高い。

もし、バブルというならばそれは賃貸不動産市場だ、というのがもっぱらの見方だ。2000年以降の株式市場の低パフォーマンスを背景に、個人投資家の資金が株式から不動産へシフトされており、銀行の住宅向け融資残高に占める投資目的の割合は97年の20%から足元では33%へ上昇している。このため、賃貸不動産価格が上振れしている可能性は否定できない。しかし、同期間で賃貸住宅の空室率が2%程度から5%近くへ上昇した一方、賃貸収益率は5~6%から3%程度へ低下しており、すでに投資収益は悪化し始めている。投資目的の住宅投資についても、金利の小幅上昇でその過熱感が沈静化される公算が高い。

ただし、CPI上昇率は7-9月期に前年比+2.6%と中銀のインフレ・ターゲット内に収まっているうえ、中期的にも急激なインフレ懸念は小さく、早急な利上げの必要性は感じられない。それにもかかわらず利上げが必要であるのは、住宅融資を変動金利で受ける豪州で住宅融資金利が90年代初めの17.5%から6.0%へ下がった効果が大きく、現段階では金融政策が「緩和寄り」と判断されるためである。中銀は豪州経済の持続的成長をもたらすために一般財価格の変動に加え、金融資産価格をも政策決定上の判断材料に入れ始めている。04年央までにあと50bp程度の利上げが想定されよう。

世界で最も高い金利水準と急速に強まっている利上げ観測を足がかりに、豪ドルは11月18日に72.45米セントと6年来の高値へ上昇した。豪ドルはしばらくのところ、強含みで推移しよう。だが、利上げ局面への移行は予想よりも早く、これに伴って豪ドルがピークをつけるタイミングも想定していたより早まってきている。世界景気の回復局面入りを背景に、豪州以外の国においても早晩利上げ観測が台頭してくる公算は高く、豪州の利上げ打ち止め観とともに豪州の対外金利差の拡大期待も後退することになろう。豪州の利上げ打ち止め感が市場に織り込まれた時こそ、豪ドルのピークになる可能性が高い。

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