ドル安リスクの重み

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2003年11月18日

  • 尾野 功一

9月20日のドバイG7後に顕在化した円高ドル安の流れは、11月に入りひとまず一服している。しかし、ドル高期待が盛り上る兆しはなく、潜在的な円高ドル安圧力は消滅していない。

ここまでの円高ドル安の要因は複合的である。まず、数ヶ月程度の視野でみると、日本経済の好転期待、海外からの日本株投資の増加、そして日本の通貨当局の円売り介入姿勢の後退は、類似した環境のもとで円高が進行した99年の再現を予想させる。より長期の数年単位の視野に立つと、現在の米国の「双子(経常収支・財政収支)の赤字」の存在が1985年のプラザ合意時と重なり、当時の強烈でかつ長期に及ぶドル安の再現を連想させる。更に、米国政府の意向にも注目が集まり、大統領選を来年に控え再選を目指すブッシュ大統領が、芳しくない雇用情勢のてこ入れのために、ドル安志向を強めているとの思惑が生じている。

このなかで、短期的なドル安要素はさほど磐石なものではない。99年は情報技術部門が強烈な牽引役として存在し、円高の悪影響を吸収する構図が明確であったが、現在は、日本の景気回復、民間部門の改革への評価、そしてデフレ脱却など期待が分散しており、円高の悪影響を吸収する要素はやや不明瞭である。また、米国政府のドル安志向に関する思惑についても、10月にみられた米国の失業率の改善、雇用者数の増加が今後も続くのであれば、説得力が低下する。これらの点を考慮すると、年末までは円高が再加速する可能性は排除できないものの、円高の余地が限定されるシナリオがメインとなろう。

もっとも、長期的にはドルに逆風が吹きつづける可能性が高い。先述の長期的なドル安要素は直ぐには覆らないからである。また、ドル安が通貨危機に類似する深刻な問題を生み出さない限り、米国はドル安を問題視しないであろう。通貨安と資本流出による悪影響を直結させる見方は、イメージが先行しており必ずしも現実を説明していない。プラザ合意後の急激なドル安局面において、海外資本が米国から急激に引き上げられることなく安定的に流入し、長期金利はむしろ低下した事実がその代表例である。ドル安トレンドの長期化は、遅かれ早かれいずれは1ドル=100円割れに至る局面を生み出すことになろう。

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