ベティー・ベンソンとは誰か?~コーポレート・ガバナンスのもう一つの問題~

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2003年11月07日

  • 鈴木 誠

エンロンやワールドコムの破綻を導いた、元CFO等経営幹部の名前はしばしば報道されるが、一般社員の関与はあまり触れられることは無い。

ワールドコムの場合、ベティー・ベンソン(以下、ベティー)は経理担当として上司の指示で経費を削減し、企業利益の水増しを図る不正会計に関与していたが、ジレンマから同僚とともに上司に幾度となく不正会計の違法性を指摘した。しかし、逆に上司からは「いやなら、会社を辞めろ」と迫られてしまう。ただし、バブルの崩壊後、ベティーが新たな仕事を探すことは困難な状況にあり、さらに、ベティーのもたらす収入に家計が大きく依存していたことも、ベティーが不正を認識しつつも、粉飾決算に自ら関与しなければならない状況を招くこととなったのである。

この問題として深く考えなくてはならない点は、「不正を知しりつつ、関与したこと」もさることながら、「業務命令を忠実に実行することが不正に関与すること」についてである。ベティーは同僚とともに不正の共謀と証券詐欺について告発されており、最大15年の禁固刑が科せられる可能性があるようだ。この話を聞いた後で、ハーバード大学行政大学院のある教授に次の寓話を話してみた。

「ある人の良い男がいつものように法定速度を守る運転をしていたところ、途中でヒッチハイカーを乗せることとなった。ところが、そのヒッチハイカーが突然、強盗に豹変し、男に時速150キロで走ることを強要した。男はしぶしぶ同意し、時速150キロで走らざるを得なくなった。しばらくすると、警官によって停車を命ぜられ、男は法定速度の大幅超過による危険運行の罪に問われた。」

ベティーの件も人の良い男の行為も一筋で解決される問題ではないと教授は答えたが、こうした比較的マイナーとなりがちな問題もコーポレート・ガバナンスとして重要であり、企業の論理においていかに倫理を担保することが困難であるかを再認識させられた一件である。

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