前回景気回復局面との違い

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2003年11月05日

  • 取越 達哉

GDP統計からみると、今回の回復局面(02年Q1→03年Q2とした)は、前回の回復局面(99年Q1→00年Q4)と似ている点が多い。まず、実質GDPの平均的な成長率をみると、今回と前回はほぼ同程度となっている(前回:年率+2.8%→今回:年率+3.1%)。また、公共投資など政府支出の下支えが無い中で、輸出と設備投資に依存する回復であるという点も同じである。もっとも、90年代半ば以降、設備投資は(特に2四半期前の)輸出の影響を強く受けていると見られる。実際、今回の回復局面においても、輸出が02年第1四半期に増加に転じた後、設備投資は2002年第3四半期から増加に転じている。したがって、少なくともこれまでの景気回復の牽引役は今回も、前回同様、やはり輸出である、といえるであろう。

ただし、輸出動向を詳細にみれば、大きな変化が表れている。財務省「貿易統計」を用いて輸出数量(財のみ.サービスは含まず)の増加に対する国・地域別寄与率を試算してみると、中国向けがアジアNIEs向けを上回るほどに大きくなっている(中国向け 前回:15%→今回:43%.アジアNIEs向け 前回:46%→今回:33%)。輸出シェアをみても、中国向けは全体の10%強にまで上昇しており、25%前後を占める米国向けに次いで、単独2位となっている。先行きを考えても、ひときわ高い成長が予想される中国経済が日本経済に及ぼす影響は、一段と強まる可能性が高い。

なお設備投資に関しては、事業所向けサービス業の増加が大きな特徴となっている。物品賃貸業、情報サービス業などを主力とする同部門の設備投資増加の理由は定かではなく、その持続可能性には疑問も残る。ただ、中長期的に考えれば、同部門はわが国経済の成長産業となりうる業種でもあり、今後の動向が注目されることは間違いない。

次に、全産業活動指数を用いて、どのような業種が同指数(≒実質GDP)を押し上げたかを比較してみると、電子部品・デバイス工業(半導体等)の寄与が特に大きいという共通点がある。ただ、電子部品・デバイス工業を取り巻く環境については、やや変化が生じているように思われる。この点に関連して、電子部品・デバイス工業の出荷を比較してみると、平均的な伸びはほぼ同じ(年率約24%)であるが、その出荷先については、輸出の増加が相対的に小さく(前回:年率+18%→今回:年率+11%)、国内向け出荷の伸びが高いことが特徴として挙げられる(前回:年率+27%→今回:年率+29%)。こうした違いを説明する要因の一つとして、今回の回復局面では、特にデジカメ、DVDレコーダ、液晶テレビなどデジタルAV機器の出荷好調により、国内生産が増加していることが挙げられよう。

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