報酬制度に込められたメッセージ

2017年10月24日

  • 経営コンサルティング第四部 主任コンサルタント 小林 一樹

コーポレートガバナンス・コードを背景に役員報酬を見直す企業が増えている。中でも、中期経営計画で目標とした業績指標を役員報酬に反映させている企業は、「計画を絵に描いた餅で終わらせない」という覚悟が読み取れる。最近は中期経営計画にESG(※1)などの非財務目標を盛り込む企業も増えている。ESGに積極的に取り組んでいるオムロンはサステナビリティ指標の評価により付与される株式の数が変動する報酬制度を導入した。報酬制度には企業が目指している方向性や価値観が反映されるため、それは社外及び社内に対するメッセージとなる。

従業員に対する報酬制度についても、メッセージ性の観点から考えてみたい。働き方改革のモデル企業としてよく挙げられるSCSKでは、一定の残業時間分の手当を月額給与に一律上乗せ支給し、残業手当の減少を意識せずに効率化に取り組むことができるようにしている。報酬制度を変えず、働き方改革の号令だけで業務を効率化して残業時間を減らしても、手取りの収入が減ってしまうために取り組みが形骸化してしまうことは容易に想像できる。会社からのメッセージは報酬制度と組み合わせることでより浸透する。同社の従業員はこの報酬制度から、自社が目指している方向性や価値観を、経営陣からの強いメッセージとして受け取ったことだろう。

全ての企業でSCSKのような思い切った報酬制度への移行は現実的に難しい。ただし、全面的な制度移行でなくとも、報酬制度にメッセージを込めることは可能である。例えば、従来から好成績を残した従業員に、社長賞などの名目で特別賞与を付与するケースがある。これに「働き方改革」の観点からメッセージを込める場合、売上高を勤務時間で割った「時間あたりの成果」などで評価すると、従業員に対して会社が目指す方向性を伝えることができる。このような考え方自体は新しいものではないが、筆者は、この特別賞与に、昨年から導入事例が増えている譲渡制限付株式報酬(※2)を活用することで、よりメッセージ性が強まるのではないかと考えている。従来の現金による特別賞与は貰ってしまえばインセンティブ効果は終わる。しかし、株式報酬の場合、付与後も自身の取り組みが業績向上に貢献し株価の上昇に繋がれば報酬額も増加するため、「継続的に取り組んで欲しい」というメッセージを込めることができる。優秀な従業員に対するリテンション効果(※3)に加え、自社業績への関心や経営参画意識を高めるメリットもある。他にも、新規事業の提案やその成功にインセンティブを設定するケースがあるが、ここでは敢えて、新規事業の失敗時にも譲渡制限付株式を付与することを提案したい。社内の新規事業開発においては、失敗時に評価が下がることを懸念し挑戦を躊躇することが考えられるが、失敗時にはプロセスに着目し、少額であっても譲渡制限付株式を付与する制度を用意することで、企業からは「失敗も評価している。失敗を活かし、引き続き自社で挑戦して欲しい」というメッセージを伝えることができる。

報酬制度は、全面的な改訂をしなくとも、柔軟な発想で捉え直し工夫することで、会社が大事にしている価値観を伝えるメッセージツールとなる。経営環境が大きく変化する今こそ、伝えたいメッセージを報酬制度に込めてみてはいかがだろうか。

(※1)Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の三つの言葉の頭文字を取った言葉で、企業の持続的な成長に必要な観点のこと。
(※2)一定期間の譲渡制限を付した株式を付与するもの。従業員に付与する場合は、労働基準法に抵触しないよう留意する必要がある。
(※3)譲渡制限付株式は、譲渡制限期間中に自己都合により退職した場合は会社が無償取得する条件を定めておくことで、リテンション(繋ぎ止め)の効果が得られる。

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