「ファンド向けエクイティ出資」と「SA-CCR」

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2016年08月02日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)が過去に公表済みの最終規則のうち、2017年から適用されるものとして、「銀行のファンド向けエクイティ出資に係る資本賦課」(以下、「BCBS266」。2013年12月公表)と、「カウンターパーティ信用リスクエクスポージャーの計測に係る標準的手法」(以下、「BCBS279」。2014年3月公表)の二つがある。

BCBS266は、現行のバーゼル規制におけるファンド向けエクイティ出資の取扱いをより明確かつリスク・センシティブにし、ファンドの裏付資産に係るリスクをより適切に反映するものである。具体的には、ファンド向けエクイティ出資に係る所要自己資本の算出方法として、そのリスク感応度に応じて、①ルックスルー方式、②マンデート方式、③フォールバック方式(リスク・ウェイト1,250%)の三つのアプローチを提示している。

BCBS266はわが国の現行ルールほどきめ細かくなく、一概には言い難いが、銀行によっては、ファンド向けエクイティ出資に係る所要自己資本が引き上げられるケースもあるだろう。

BCBS279は、銀行のカウンターパーティ信用リスクエクスポージャー(CCR)の計測に係る標準的手法(SA-CCR)を導入するものである。SA-CCRは、現行のバーゼル規制におけるデリバティブ取引の与信相当額の算出方法に取って代わる手法である。

こちらについても、わが国の現行ルールと比較してデリバティブ取引に係る所要自己資本が引き上げられるか引き下げられるかは一概には言い難いが、現行の算出方法に比して与信相当額の算出が複雑であることは間違いなく、事務負担の増加が見込まれよう。

前述の通り、これら二つの最終規則は、2017年から適用される。わが国の場合、2017年3月31日が適用日になるだろう。当面は、海外展開をしている「国際統一基準行」が対象になる。加えて、これまでのバーゼル規制の導入状況から、海外展開をしていない「国内基準行」についても適用される可能性が高い。

このように、少なくとも国際統一基準行については、これら二つの最終規則の適用が見込まれる日までおよそ8ヶ月となっている。しかし、本稿執筆時点(2016年7月26日)では、いまだこれら二つの最終規則がわが国においてどのように導入されるのかが明らかになっていない。

というのも、バーゼル規制は、あくまでもBCBSが策定するガイドラインであり、わが国では金融庁が定める「告示」(※1)、「監督指針」(※、「Q&A」(※3)で規定している。ところが、いまだこれら二つの最終規則を導入するための告示案が公表されていないのである。

とりわけ国内基準行の中には、いずれ自行にも適用される可能性のあるこれら二つの最終規則の告示案の公表を待ちわびている銀行が多いのではないだろうか。

(※1)「銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準(平成十八年金融庁告示第十九号)」等の略称をいう。
(※2)「主要行等向けの総合的な監督指針」等の略称をいう。
(※3)「自己資本比率規制に関するQ&A」の略称をいう。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光