2009年の中国株を支えた2つの大砲の今

2015年9月8日

  • エコノミック・インテリジェンス・チーム エコノミスト 長内 智

最近のグローバル金融市場は、6月半ば以降の中国株の急落や8月の人民元の切り下げなど、中国を震源地として大きく揺れている。過去を振り返ってみると、米国の住宅バブル崩壊やリーマン・ショックなどを背景に、中国株は2007年後半から2008年後半にかけても急激に下落していた。しかし、その後は株価がV字回復を遂げたことから、2009年の中国株は良好なパフォーマンスを示した。

実は、ちょうどその時期に筆者は外国株式全般の調査を担当しており、今回の中国株の急変動は当時を思い出させる良い機会となった。中国株がV字回復の動きを見せていた頃を思い起こしてみると、当時の大きな買い材料として、中国政府が2008年11月に打ち出した「4兆元の経済対策」(当時の為替レートで約57兆円)が挙げられる。この大規模な内需刺激策によって、中国経済が世界に先駆けて持ち直すとの期待感が高まったことが中国株反転のきっかけになったのである。実際、現場では、その頃から中国の個別株や投資信託に対する問い合わせが増えたことを今でも覚えている。

また、世界中を驚かせた大型財政出動に先立って、中国政府が「ドルペッグ制」を再開させ、輸出の下支えを行っていたことも忘れてはならない。人民元は2005年7月に「管理変動相場制」へと移行してから上昇傾向を続けていたが、2008年7月になって人民元高(対ドル)がぴたりと止まった。当時の中国では、人民元高によって輸出企業が厳しい経営環境にあったことから、政府が無尽蔵な資金による為替介入によって人民元の上昇を食い止めたのである。さらに、現在の世界的な「ドル高」局面とは正反対で、当時は「ドル安」傾向にあったことから、人民元をドルにペッグすることによって「世界的なドル安=人民元安」という構図を生み出していた。

こうした輸出後方支援策の規模を外貨準備高の変化で確認しておこう。中国の外貨準備高は、人民元売り・ドル買いの為替介入によって、リーマン・ショック後の1年間(2008年9月末~2009年9月末)で約3,800億ドル(当時の為替レートで約34兆円)も増加している。中国政府が為替レートを通じた輸出下支え策として、いかに巨額の資金を投入していたかが分かるだろう。これによって、為替市場ではドル安・人民元高の進行が食い止められ、さらに人民元の総合的な実力を示す実質実効為替レートは下落傾向(人民元安)に転じたのである。

それでは、今回の中国の政策対応はどうだろうか?中国政府は、かつての「2つの大砲(景気対策)」を打てるような状況にない。前回の「4兆元の経済対策」の後に過剰融資と過剰資本ストックの問題が生じており、さらなる大型景気刺激策はこの問題を一層悪化させる恐れがある。また、中国からの資金流出懸念がくすぶる中で、大幅な人民元安誘導も難しく、しばらく実質実効為替レートは高止まりする公算が大きい。

かなり長い目で見ると、中国経済はいわゆる「先進国へのキャッチアップ」の段階にあるため、バブル崩壊を回避することができれば、今後も拡大傾向が続く可能性があろう。さらに、政府債務残高の国際比較からは、中国の長期的な財政出動余地は大きい。ただし、最近の中国政府のその場しのぎとも言える対応を見る限り、当時のような中国株のV字回復や中国経済の急回復は期待しにくく、日本経済にとっての最大のリスク要因として中国経済の動向を引き続き慎重に見極めたいと考えている。

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