規制強化で揺れ動く欧州金融機関の富裕層ビジネスとその影響

2015年2月12日

今年の1月に欧州(スイス、パリ、ロンドン)に出張し、グローバルな規制が強化される中での欧州の銀行における富裕層向けビジネスの変化をテーマに、現地の金融機関、関連機関を訪問した。

最近の欧州金融機関の戦略の方向性として、富裕層をターゲットとしたフィー・ビジネスが注目されている。この背景には、グローバルな資本規制が強化され、超低金利という厳しい運用環境の中で、預貸ビジネス、投資銀行ビジネス等の本業が不振に陥っていることがある。一方、富裕層向けビジネスにおいても規制の強化の動きが活発化している。特に、MiFIDⅡ(※1)によるEU各国レベルの適合性原則等のコンプライアンス規制の強化、米国のFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act:外国口座税務コンプライアンス法)やOECDのCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)等の個人のグローバルな租税回避行為に対する規制の強化等が、金融機関の富裕層ビジネスに与える影響は増大している。

今回の現地取材では、欧州の金融機関が上記のコンプライアンス等の規制強化の対応において、更なるITの導入による体制の整備に加えて、コンプライアンス・リスクに対する従業員の意識改革等、既存の事業プラット・フォーム自体の変革を迫られていることが判明した。大手の金融機関では、その対応費用として数十億ドルを見積もっていた。

さらに、スイスとイギリス(ロンドン)の間の政府レベルでは、富裕層向けビジネスを中心とする国際金融センターとしての地位を如何に維持するか、熾烈な競争が繰り広げられていた。スイスは金融セクターのGDPへの貢献度が約1割、イギリスは約2割とされており、両国の経済への影響は大きい。両政府とも金融セクターの競争力維持とグローバルなコンプライアンス規制強化への対応を如何にバランスさせるかという大きな課題に取り組んでいる現状が見受けられた。

最後に、今回の現地取材を通じて、顧客の立場としての富裕層の視点を常に考えさせられた。金融機関が提供できる付加価値の高いサービスとは何か。先進国の富裕層は、その富の相続が課題であり、個人の努力で蓄積した富を保全するということが課題であると感じた。そこには、金銭的な財産以外に知的財産もある。知的財産は、その国の経済成長に貢献してきた可能性もある。今後、このような知的財産も含めた“富の保全と継承”に対して、正当なソリューションを提供することが、金融機関に求められる高い付加価値のサービスであろう。

もっとも、トマ・ピケティ著の『21世紀の資本』がベストセラーになっている現在、富の保全および継承(再配分)を、金融機関が担うのか、国が担うのか意見は分かれるかもしれない。

(※1)EUにおける金融商品、サービス、市場に関する規制を定めた金融商品市場指令(MiFID)の大幅な見直し。

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