早咲きのレディーファースト

2014年10月1日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野 泰夫

働く女性を応援するひとりとして、毎朝、娘をロンドンの保育園に送り届けることが日課となっている。そこでは、保育園児とは思えないびっくりする光景に、度々遭遇する。それは、早咲きの紳士が、遅咲きのイクメンの自分とは明らかに違う、大人顔負けの女性へのマナーを既に実践していることだ。

スペイン人の男子の同級生などはわずか3歳にして、朝食会場(単なる遊び場だが)で娘の上着を預かり、椅子を引いてエスコートしてくれる。目を見て自己主張をする姿を見ると、既に大人の風格すら漂ってくる。同級生が一堂に、丸テーブルを介して朝食を食べる姿を見ると、なんだか、子供版G8首脳会談のようだ。これでは、日本人がいくら大人になってから、自己主張やレディーファーストを学んでも追いつくわけがない。一方で、重要だと思ったのが、女性へのマナーもさることながら、ロンドンの保育園では、違う民族間で互いに意見を主張し、それを尊重する訓練を既に受けていることだ。国の大小にかかわらず、相手側の主張をもとに、まずは聞くことから始める。駄々をこねる子供(十分、子供だが)のように、一方的に自己主張だけをして、相手側をねじ伏せようということはない。また、男女問わず、その後の相手への感謝と、出会いと別れのハグも忘れていない。日本人では、ハグなどが自然にできる子供が少ないため、せっかく、現地の学校に入れても孤立するケースも多いとのことだ。

スコットランド独立の住民投票は日本でも大きく報じられたようだが、現在、欧州の他の地域・民族でも独立の気運が急速に高まっている。通貨はユーロ、国防はNATOがあるため、安心して独立を選択できる環境にある。皮肉にも欧州統合の深化が進むほど、地域での独立志向が強くなるということだ。重要なのは少数民族においても、独立の要求を尊重し住民投票を容認する姿勢であろう。スコットランド独立の住民投票が実施できる文化は、幼少期から根付いているのではと推察できる。

また、スコットランド独立投票の陰で忘れられがちだが、今年、クリミア半島で一方的に住民投票を実施されたウクライナが、9月16日にEUとの自由貿易を含む連合協定に調印した。ウクライナのEU加盟の第1歩といわれる。ただし、ウクライナのEU加盟を阻止したいロシアのプーチン大統領は、この協定に関して不満を示しており、一連の協定の見直しを求め、EUとウクライナとの交渉にロシアを入れろとの主張を展開している。ロシアとウクライナという兄弟喧嘩に、EUが入ることに関しては黙っていられないということであろう。ただし同日、ウクライナ議会がもう一つの重要な法案を可決している。その法律はドネツク州とルガンスク州の3年間の特別自治権を認めるものだ。学校でのロシア語による教育が可能になるなど、ロシア側が主張する連邦制に配慮した格好だ。ここでも主張と尊重をうまく交えているといえよう。

先月、久しぶりに日本に出張し、英国のシンクタンクと共同でセミナーを実施する機会を得た。今回、数ヵ月の準備期間の中で幾度となく、国際会議の場で両国間の調整の難しさを痛感することとなった。EUなど複数国が交じり合う場で、互いの主張を調整することの難しさを実感すると同時に、英国人の仕事へのマインドが良く分かり、非常に勉強になったといえる。まずはしっかり主張しながらも、最後は前に進めるために相手を尊重する姿勢には感動すら覚えた。

将来、ここにいるロンドンの保育園の子供達が、大きくなったとき、本当の国際会議に出席していることは容易に想像できる。彼らは、私達の世代で解決できなかった、各国間の問題に立ち向かってくれているのであろう。朝から娘と格闘し、“歯磨きをしないと、ヴォーク(ロシア語でオオカミ)が来るぞ〜” (ここだけは娘の主張を尊重できない)と、出勤前から何をやっているか分からなくなりながら、そのようなことを思う毎日だ。

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