国際監査・保証基準における「監査報告書の改訂」の意義の考察

監査の質の改善とコーポレート・ガバナンスの強化

2014年8月6日

今回は、前回のコラム(※1)で触れた筆者が委員を務める国際監査・保証基準審議会(IAASB)諮問・助言グループ(CAG)(※2)が抱える最大のテーマである「監査報告書の改訂」の現状について説明する。同基準は、近々最終化を迎える予定である。

日本では、監査報告書とは、有価証券報告書等の最後に一緒に綴じられている1枚の「独立(※3)監査人の監査報告書」という定型文の報告書を指す。実際の監査報告書では、「監査の対象(監査の対象となった財務諸表の範囲)」、「実施した監査の概要(監査基準に基づく監査)」、「監査意見(※4)」となる。

大半の利用者は、その存在について、それほど気にもかけない有価証券報告書の1ページであったと思われる。これを裏返せば、利用者にとっては「監査」とは何を行っているか、多少なりとも“ブラックボックス”であったことは想像に難くない。

この“監査がブラックボックス化している”という問題意識はあり、何十年も以前から議論されている古くて新しい課題であったが、その解決の必要性が再認識されたのがリーマン・ショックであった。IAASBは2000年代の半ばから監査報告書の記載の変革の方向性について議論してきたが、リーマン・ショック後の2011年から、その調査(※5)を本格化した。米国公開企業監視委員会(PCAOB) 、欧州委員会(EC)、英国財務報告協議会(FRC)においても同様の動き(※6)があった。

IAASBの中核テーマは「監査報告の価値の強化」であり、監査の付加価値が改めて問い直されたのであった。それを最終的に「監査報告書の改訂」という形で突き動かしたのが、利用者のニーズ=“財務諸表の重要な事項および監査実施に関する透明性向上”と“そのためのイノベーションの必要性”であった(※7)

IAASBは、既に新しい基準の記載内容を盛り込んだこれまでより“長文”の監査報告書の記載例を公表している。記載内容については、CAGの会議の中でも意見としてあったが、客観視すれば、それほど目新しい記述はないと見受けられる。このため監査報告書の付加価値を高めるために、監査人が得た企業の一次情報をどの場合に記載するかというガイダンスも提示されている。

しかし、最大のポイントは、利用者からのニーズにあった「外部監査人が、経営者とのコミュニケーションを通じて、財務諸表のどの部分を重要な事項(※8)として専門的に判断し、監査上どのように対処したのか」という監査自体の透明性の向上である。監査の成果物としての監査報告書が注目されてしまう傾向があるが、このポイントを軸に、監査報告書の改訂の今後を注視していく必要があろう。

英国では、既に2012年10月1日以降の開始事業年度より新たな監査報告書が発行済の状況である。適用対象は、英国のコーポレート・ガバナンスの適用企業の監査であり、コーポレート・ガバナンスの強化とセットで監査報告書の改訂が導入された。監査報告書の改訂はコーポレート・ガバナンスの強化に間接的につながることが目的とされていることも注目すべきポイントと言えよう。

(※1) 2014年6月4日「国際協調における"公益"を共有することの難しさ」を参照。
(※2) 国際監査・保証基準審議会(IAASB:International Auditing and Assurance Standards Board)の諮問・助言グループ(CAG:Consultative Advisory Group)。メンバー機関は、EC(欧州委員会)、IOSCO(証券監督者国際機構)、世界銀行、米国アナリスト協会、日本証券業協会等25の機関。オブザーバー機関としてIMF、バーゼル銀行監督委員会、PCAOB(米国公開企業監視委員会)等5機関で構成される(2014年3月現在)。筆者は日本証券業協会の代表として参加。
(※3)監査対象とする企業との利害関係がないこと。
(※4)独立監査人が、経営者が作成した財務諸表について、一般に公正かつ妥当と認められている企業会計の基準に準拠して「企業の財政状態、経営成績(及びキャッシュ・フロー)の状況」をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて意見すること。
(※5) 2006年標準監査報告書に対する利用者の認識に関する学術研究を委託した。
(※6)象徴的の動きは、ECが2010年に公表した「グリーン・ペーパー:監査に関する施策:金融危機からの教訓」
(※7)2011年5月のIAASBコンサルテーション・ペーパー「監査報告の価値の強化:変更の選択の模索」に対する利用者からのコメント。
(※8)監査上の重要な事項(Key Audit Matters)

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