「三角合併」雑感

2013年10月8日

2013年9月、日米の半導体製造装置大手が、いわゆる三角合併を用いて、経営統合を行う計画を発表した。報道を見る限り、三角合併というスキームそのものよりも、両社の経営統合そのものの効果・影響や、統合後の持株会社を(日本でも米国でもなく)オランダに設立することの方が関心を呼んでいるように思われる。このように三角合併が、先入観にとらわれず、あくまでもM&Aの一つとして分析されるようになったことは、かつて、三角合併を可能とする「合併等の対価柔軟化」を盛り込んだ会社法の制定(平成17年(2005年))を巡って起こった「論争」を知る者としては、隔世の感を禁じ得ない。

 三角合併とは、通常、消滅会社の株主に、合併の対価として、存続会社の株式ではなく、存続会社の親会社の株式を交付する合併形態のことをいう。例えば、A社を消滅会社、B社を存続会社とする合併に当たって、A社(消滅会社)株主に存続会社であるB社の株式ではなく、その親会社に当たるBホールディングス社の株式が割り当てられるといったスキームである(図参照)。

三角合併のスキーム(例)

 こうした三角合併が、当時、どうして論争を巻き起こしたのかというと、一部の論者が、三角合併が可能となれば、わが国を代表する大企業でさえも、時価総額に勝る外国企業によって容易に買収され得ると喧伝し、三角合併が外国企業による国内企業に対する敵対的買収を助長するとの論調が拡大したためである。これが、折からの敵対的買収事案や、いわゆるアクティビスト・ファンドの活動、さらには買収防衛策の導入などとも結びつけられて、社会的な「論争」にまで拡大したのである。

 筆者は、当時、三角合併が外国企業による国内企業に対する敵対的買収を助長するとの主張は、多分に誤解に基づくものであると、折に触れて指摘していた。誤解の最大の原因は、三角合併が、いわゆる友好的買収の手段であって、敵対的買収のための手段ではないという事実が十分に理解されていなかった点にあったと考えられる。三角合併を実施するためには、一般的な合併と同様、事前に合併契約を締結した上で、その合併契約について、原則、株主総会の特別決議による承認を受ける必要がある(会社法748条、783条など)。つまり、会社同士で契約を締結する必要があることから、そもそも被買収会社の経営者の同意なしには、三角合併は実現しないのである。

そのほか、対価が外国株式となる三角合併の場合、①わが国に広く分散する被買収会社の株主に対価となる外国株式を割り当てるための事務負担やコストの問題があることや、②被買収会社の株主の中には、ポートフォリオ管理(例えば、「国内資産と外国資産を○対○の割合で保有する」)や、運用契約(例えば、「外国株式はファンドに組み入れてはならない」)などの観点から歓迎しない者が存在することなども、必ずしも正しく理解されていなかったように思われる。

 ともあれ、三角合併について、先入観にとらわれずに、一つのM&A案件として冷静かつ客観的に分析できるようになったことは、わが国の市場、経済、ひいては社会の「成長」、「成熟」であると評価することも可能だろう。かつての(筆者には、当時、不毛としか思えなかった)「論争」も、こうした「成長」、「成熟」のための「通過儀礼」の一種であったと考えれば、多少は意味があったと思えるような気がする。あくまでも「気がする」というだけだが……。

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