「アベノミクス」が抱える3つの課題

2013年5月2日

「異次元の金融政策」を標榜する、黒田東彦・日本銀行新総裁が鮮烈なデビューを飾った。

新生・黒田日銀が決定した金融緩和は、金融市場の事前予想を大幅に上回る大胆な内容であった。

4月4日に、日銀は2年間で前年比+2%の消費者物価上昇率実現を目指す「量的・質的金融緩和」の導入を決定した。政策目標を従来の「金利(無担保コール翌日物金利)」から「マネーの量」に切り替えると共に、「マネタリーベース(資金供給量)」を2年間で倍増させる。日銀が市場から購入する国債の残存期間を長期化することに加え、長期国債や上場投資信託(ETF)などのリスク資産も大幅に買い増す。この結果、2014年末の日銀の資産規模は290兆円(GDP比59%)に倍増することとなる。

日銀に対して普段は辛辣な海外メディアの報道も総じて好意的である。英フィナンシャルタイムズ(FT)は「黒田が市場を急襲」「日本が金融革命を始めた」という表現で賛辞を送った。独フランクフルターアルゲマイネ・電子版も「天変地異が起きた」と報じた。

筆者は、「黒田マジック」を受けて、ボールは政府に投げられたと考えている。

一見好調に滑り出したかに見えるアベノミクスは、3つの課題を抱えている。

第一に、現時点でアベノミクスは、金融政策や公共投資などのカンフル剤が中心となっている。だが、アベノミクスを持続的な経済成長につなげるためには、規制緩和やTPP(環太平洋経済連携協定)参加などの構造改革への取り組み――すなわち三本目の矢の強化が不可欠である。安倍政権が日本経済の体質を抜本的に改革できなければ、株高・円安は一過性のものに終わることが懸念される。

第二の課題は、財政規律を維持することである。

財政規律の喪失と一体的に行われる大胆な金融緩和は、事実上の「マネタイゼーション(負債の現金化)」の色彩を帯びる。もし日本で債券相場が急落(=長期金利が急上昇)すれば、歯止めのかからない悪性の円安や、輸入物価の上昇を受けた「スタグフレーション(不況下の物価高)」の発生が懸念される。

第三の課題は、雇用者の所得を増加させることである。

過去の歴史を検証すると、わが国では「売上高増加→賃金増加→物価上昇」というサイクルが存在する。すなわち、わが国では売上高が増加した半年~1年後に賃金が増加し、その約半年後に消費者物価が上昇する傾向があるのだ。

ただし、2000年代以降、「グローバリゼーション」の進展などを背景に、売上高の賃金に対する先行性が崩れつつある点には一定の留意が必要である。今後、売上高の増加が賃金の増加に適切に波及していくような「トランスミッションメカニズム(波及経路)」を政策的に強化する必要があることは間違いない。

安倍政権には、ここまでの成功に慢心することなく、さらなる政策課題に取り組むことを大いに期待したい。

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