中国行政改革はどこまで進むか?

RSS

2012年08月03日

  • 金森 俊樹
中国では、昨年から、中央行政部門の公務海外出張費、公用車の購入・維持費、公務接待費の「三公経費」を発表し始めた。役所の腐敗や浪費に対する庶民の不満が高まっていることを、当局も無視し得なくなってきていることの証左であろうが、発表の内容については、様々な批判や疑念がネット上で見られた(2011年7月28日付アジアンインサイト)。2年目となる本年、財政部より公表された2011年の同経費総額は93.46億元(約1,100億円)と対前年(94.7億元)比で若干減少、うち公用車関係費が59.15億元(前年61.69億元)と引き続き最も大きく、海外出張費が19.77億元(同17.73億元)、公務接待費が14.72億元(同15.28億元)で、中央行政部門の行政経費総額約900億元の10.4%が三公経費とされた。全人大常務委は、2年以内に省級の地方政府も同様の公開を行うよう求めている。


関係者は(財務部等)、自画自賛の面もあろうが、昨年からの改善点をいくつか挙げている。第一は、昨年各中央部門からの公表が遅々として進まず1か月余りを要したのに対し、本年は大半の部門が一斉に早々と公表したこと(全人大常務委の審査後、財政部は20日以内に決算の審査結果を各部門に通報、各部門はその後速やかに公表することが義務づけられている。本年の全人大審査は6月30日)、第二は、各部門によってまちまちで雑然としていた様式がかなり統一されたこと(決算全体の様式が従来の2様式から6様式へ整備)、第三に、記載内容がやや詳しくなったこと(たとえば多くの部門が、海外出張の回数・延べ人数、公用車新規購入台数・価格、接待費の内訳等を発表)である。


他方で、なお次のような問題点を指摘する専門家の声も多い(中央財経大学、上海財経大学、国家行政学院他)。第一に、本年初めて部門毎の行政経費総額が公表されているが(詳細内訳はなお未公表)、その決算総額に占める比率は1-60%と部門によって大きな開きがある(科技部の最低比率0.35%に対し、外貨管理局99%、行政部門に対する苦情・訴訟の受付窓口である信訪局59%、海関総署43%等)。もちろん部門毎の業務内容の差異もあろうが、これほど大きなばらつきがあるのは、部門によってかなり統計処理が異なるためではないかと見られている。第二に、半数以上の部門(税務総局、発展改革委、中国科学院等)の三公経費の2012年予算額が2011年決算額比で増加していることである。これは、12年予算が11年予算を基に策定されているのに対し、11年決算額は同年予算額を下回っていることが多いという技術的要因があるようだが、部門間で公用車台数や海外出張者数に大きな開きがあり、なお経費圧縮の余地があると指摘されている。第三に、昨年も指摘されていたが、そもそも現在予算支出項目に三公経費を分類する専門科目がなく、したがって、部門毎に統計が恣意的になり統一がとれていないこと、さらに、法令に違反した場合の処罰規定が不十分で実行を伴っていないことである。


同じタイミングで審計署が発表した「2011年審計工作(会計検査)報告」では、法令に違反した多くの不適切な事例も明らかにされている。たとえば、国土資源部、地震局が各々、1,116万元、9,575万元を職員への特別手当の形で、また環境保健部が85万元を飲食補助に不正使用、国務院扶貧(貧困救済)班が340万元の公務接待費を関連出資企業に転用したこと等々である。これらに対し、ネット上では、昨年同様、多くの批判的な書き込みが見られる。すでに2006年、国家行政学院の研究者が、2004年時点での三公経費は中央地方合わせて9千億元にのぼると推計しており、「中央行政部門が全国の経費の百分の1しか支出していないことなど考えられない」との声、「そもそも、自分はこれだけ飲み食いしたというような自己申告は信用できない」、「小数点以下の数値に何の意味があるのか」、「詳細が明らかにされておらず、これで国民に経費を監督しろというのか」等々である。


注目すべきひとつの動きは、一般国民のみならず専門家の間からも、三公経費公開の根拠となる「条例」が、そもそも政府自身が自らをどう管理するかという発想から組み立てられていることに限界があると指摘する声が出てきていることだ。三公経費の審査・監督は、利益相反を伴う当該部門が行うのは不適当であり、各級人大予算専門委に加え、何らかの関係民間組織にもこの作業を行うよう奨励すべき、「条例」に民間人の声を反映させるべき、さらには、三公経費に止まらず、政府の重要政策、およびその政策実行状況等、政府部門の情報全体についての公開制度を整備する必要がある等の主張である(北京大学法学院等)。これは具体的には「政務信息公開法」と呼ばれるような(日本の情報公開法にあたるか)法の整備、人民法院が行政部門の情報公開行為に対する審査・監督を行う体制を整備するといったことにもつながる。現行政治体制を前提にする限り、所詮あまり意味はないとの冷めた見方もあり得るが、仮にこうした方向での検討が今後本格的に進むと、必ずしも今のところ評判の良くない三公経費の公開も、案外大きな行政改革上の意味を持ってくるかもしれない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。