資本市場でも連携強化が進むASEAN

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2012年04月16日

経済の発展には金融インフラの整備が欠かせない。ASEAN(東南アジア諸国連合:インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)は資本市場の強化に向け、様々な取組みを行っている。

債券市場に関しては、ASEANに中国と韓国、そして日本を加えた「ASEAN+3」による「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI:Asian Bond Markets Initiative)」の取組みのもと、現地通貨建て債券発行の促進や、クロスボーダー債券取引の促進のための規制枠組みの改善などが行われている。この一環で2010年に設置された「ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF:Asian Bond Market Forum)」では、2012年4月に各地域の債券市場関連情報に関するガイドを作成した。今後は、域内におけるプロ投資家を対象とした債券共通発行プログラムの策定を目指す。

資本市場全般に関しては、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF:ASEAN Capital Markets Forum)において、域内における取引ルール・法規制などの整備に取組んでいる。また、ACMFは“ASEAN Trading Link”(それぞれの取引所をネットワークで繋ぎ、自国から域内他国の取引所にアクセスできる仕組み)の構築を目指しており、最終的には域内におけるクロスボーダー取引を可能とする体制を目指す。

しかし、ASEAN10カ国間の資本市場の成熟度には大きな差があり、証券取引に関するルール・法規制も異なる。域内全ての取引所で歩調を合わせることは非常に困難であるため、現状、成熟度が相対的に高い取引所同士で順次連携を始めている。その1つが相互上場の手続き簡略化である。2012年3月、マレーシア・シンガポール・タイの証券監督当局と取引所は、それぞれの国の取引所に上場する企業が他国の取引所に重複上場を申請した場合、審査を簡略化することで合意した。現段階の参加は3カ国のみであるが、他のASEAN加盟国も一定の要件を満たせば参加できる。また、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6カ国7取引所(ベトナムにはハノイとホーチミンの2つ取引所がある)は“ASEAN Exchanges”として共同で情報発信を始めた。

取引所のグローバル競争が激化する中、欧米の取引所は競争力強化のために国を越えた企業組織再編を行ってきたが、ASEAN域内の取引所は企業組織再編とは異なった形で結びつきを深めつつある(※1)。先に挙げた6カ国7取引所は、時価総額でみると合計しても東京証券取引所の6割にも満たない。しかし、相互に連携を深めることで、投資家や発行体、仲介業者などの使い勝手が向上するのであれば、大きな資金が動く市場に発展する可能性もある。日本企業の進出が進んでいる地域であるだけに、日本企業にASEAN各国の取引所から「上場してほしい」と誘致の声がかかるようになるかもしれない。日本の取引所はアジアの中でも成熟度の高い取引所である。これまでの経験をもとに、ASEAN各国の取引所をサポートし、ASEAN域内の資本市場発展に貢献することが重要であろう。それが、ASEANに進出する日本企業のためにもなるのではないか。

【2011年3月末時点の取引所別時価総額】
【2011年3月末時点の取引所別時価総額】
(出所)国際取引所連合、ASEAN Exchangesより大和総研作成

(※1)国内における企業組織再編は行われているが、国を越えた企業組織再編は行われていない。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美