中国が想定する本当の中期成長率

RSS

2012年03月02日

  • 金森 俊樹
昨年3月に決定された第12次5ヵ年計画(2011-15年)では、計画期間中の年平均成長率を7%程度に想定するとされた。他方、本年1月開催された全国エネルギー工作会議では、同計画期間のエネルギー消費の総量抑制目標が示された。それでは、この目標は7%程度の成長率を前提にしているのか、目標の成長率へのインプリケーションは何かが問題となる。

全国エネルギー工作会議では、「三穏三進」方針(エネルギー生産量を安定的に確保すること、安定的経済成長のためのエネルギーの安定供給を保証すること、エネルギー価格の安定を確保することの「3つの穏」と、現代的エネルギー産業育成によるエネルギーの効率改善、エネルギー消費抑制・使用効率改善、エネルギー分野での技術革新という「3つの進」)の下、計画期間中にエネルギー消費総量を合理的水準まで抑制すること、それは、各地域が産業構造の調整・高度化、技術革新を進めて、エネルギー総消費を抑制することを迫る「倒逼机制(行動を促す制度的メカニズム)」になるとされた。具体的には、年間エネルギー消費量を標準炭換算で41億トン前後に抑えるとの消費総量抑制目標が示され、同時に、石炭資源税の従価税化を今後検討していくとの方針も示された。

では、年間エネルギー消費量を標準炭換算で41億トン前後に抑えるとの総量目標が、経済成長に与えるインプリケーションはどう解釈できるのか?

・2010年のエネルギー消費実績:32.5億トン
・5ヵ年計画目標:GDP単位当り年間エネルギー消費量を16%削減
・エネルギー工作会議での総量規制:年間41億トン前後(40-42億トン)

を前提に計算すると(※)、2015年のエネルギー消費総量が40-42億トンに納まる計画期間中の年当り経済成長率は、およそ8-9%程度となる。

(※)32.5億トン×(1+X%)5乗×(1-16%)=40-42億トン⇒成長率X=8-9%

すなわち、8-9%が事実上、成長率目標の上限になる。言い換えれば、計画期間中の年成長率を8-9%程度と見て、本体5ヵ年計画の16%目標を達成するための消費総量を逆算して、41億トン前後という数値を算出したものと考えられる。5ヵ年計画本体では、期間中の年あたり成長率を7%程度と固めに想定しているが、実際には、当局は8-9%程度の成長を考えているということだろう。

この総量抑制目標を達成する方策の特徴としては、第一に、成長志向の強い地方に配慮し(※)、地域毎にGDP単位当りの消費抑制目標が設定され、相対的に遅れた内陸部等地域については、全国平均の16%より低い10-15%が目標とされていること、第二に、エネルギー消費の7割以上を占める電力・鉄鋼・建設資材・非鉄金属・化学・石油を中心とする産業を対象に、21%消費削減目標(前計画期間実績26%)を設定し、そのために、年間消費1万トン以上の企業17,000社を対象とした削減計画を延長するとしたことである。

(※)2月上旬時点で、28の省・市・自治区のうち、10%以上の成長率見通しを持っているのは19地域、特に高い地域は、内蒙古15%、貴州14%、重慶13.5%、逆に低い地域は、北京、上海で、何れも8%と、成長見通しは「東低西高」(2月6日付チャイナネット)

1月31日付中国石化報等中国メディアは、前5カ年計画期間の年当り消費実績を見ると、当初見込みの30億トンを上回って、計画期間終了時の2010年には32.5億トンになったこと、また暫定的に各地域が見込む現時点での消費予測合計は50億トンにのぼっており、早々と、今回も41億トン前後に抑えるという目標達成は、なかなか困難だろうとしている。中央の発展改革委員会は、総量抑制を地区毎に分解し、地方政府に目標の責任管理をさせ、消費総量予測警告システムも導入する「倒逼机制」として、各地区の消費量を厳格に管理し、地方政府が、エネルギーを徒に消費して成長を図るような、従来モデルから脱皮することを迫るとしている。ただ実際のところ、中国で言うところの「倒逼机制」は、必ずしも、実行がなんらかの強制力で担保されているものではない。16%目標が超過達成できれば、少なくともエネルギー消費の面からは8-9%以上の成長が可能となるが、そうでない場合、総量抑制目標を堅持し、その結果、成長率が8-9%からさらに落ちることを当局が甘受するのか、あるいは結局、成長率が優先されることになるのか、中国当局の環境への取組みが試されることになる(むろん別途、欧州信用不安等外部要因で成長率が落ち込み、それによって、結果的に総量抑制目標が達成されるというシナリオもあり得る)。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。