サマリー
- 実質GDP成長率見通し:24年度+0.8%、25年度+1.3%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は24年度+0.8%、25年度+1.3%(暦年ベースでは24年+0.0%、25年+1.6%)と見込む。春闘での高水準の賃上げ継続などにより、実質賃金は24年7-9月期以降も上昇が続こう。賃上げと価格転嫁の循環により、基調的なインフレ率は2%程度で安定すると見込んでいる。当面は定額減税の効果や自動車の挽回生産が見込まれるほか、インバウンド需要の増加、高水準の家計貯蓄、シリコンサイクルの回復が予測期間中の日本経済を下支えしたり、押し上げたりしよう。ただし、米国などの海外経済の下振れリスクには警戒が必要で、円高が進行する可能性もある。
- 日銀の金融政策:日銀は経済・物価・金融情勢を注視しつつ、25年1-3月期に短期金利を0.50%に引き上げ、その後は半年に一度程度のペースで0.25%ptの追加利上げを行うと想定している。ただし、実質短期金利が予測期間を通じてマイナス圏で推移するなど緩和的な金融環境は維持されるだろう。日銀の国債買入れ減額による長期金利への影響は当面の間は限定的とみられる。
- 論点①:米国景気リスクと円高・株安の影響は?:代表的な景気指標や株式市場、家計・企業のバランスシートなどからは、米国景気は底堅いと判断される。ただし、労働市場のミスマッチの改善が進まなければ、失業率の上昇が続いても利下げが十分に進まず、景気後退を招く可能性がある。一方、10円程度の円高ドル安であれば、日本経済への影響は大きくないとみられる。株安による逆資産効果には注意が必要だが、近年の日本の実質輸出などは為替相場に反応しづらくなっており、就業者数ベースで見た「適温」な為替相場は1ドル130円台だろう。米国の景気後退と10円の円高ドル安が同時に発現すると、24年度の実質GDP成長率は0.8%pt、25年の春闘賃上げ率は0.1%pt、それぞれ低下すると試算される。
- 論点②:国債需給に見る2040年までの金利上昇リスクと経済への影響:日銀の国債買入れ減額が長期金利を直接的に押し上げる度合いは小さい。だが、中長期的には海外保有比率の上昇によるリスクプレミアムの拡大が長期金利の上昇要因となる。プレミアム拡大により、40年時点で長期金利は7%程度まで上昇し、実質GDPはベンチマーク比6.5%程度下押しされる可能性がある。金利上昇で企業部門では経常利益が減少し、製造業よりも非製造業、大企業よりも中小企業で悪影響が大きく表れる。家計部門では純利息収入が増加するが、その恩恵は金融資産を多く保有する高齢層に集中する。
- 論点③:「次元の異なる少子化対策」の効果検証:17年度以後の出生率の低下幅の約4割は有配偶出生率低下の寄与度によるもので、出生率の回復には有配偶出生率の回復が欠かせない。被保険者女性は出産年齢のピークが30代前半にあり、子どもをもう1人持つための時間的猶予が短い。仕事と子育ての両立支援を進める政府施策も有効だが、これに加え、第一子出産後早期に第二子を持つ者を支援する「スピード・プレミアム」の導入が効果的だ。当社試算では現金給付が出生率にプラスの効果を持つのは、女性が被扶養者で一定所得以下の世帯に限られた。こうした世帯にピンポイントで支援を行える在宅育児手当の導入は、費用対効果が高い少子化対策といえよう。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資:24年度+3.2%、25年度+1.5%
(2)為替レート:24年度148.0円/㌦、25年度143.5円/㌦
(3)原油価格(WTI):24年度73.5ドル/バレル、25年度69.2ドル/バレル
(4)米国実質GDP成長率(暦年):24年+2.6%、25年+2.0%
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