サマリー
- 実質GDP成長率見通し:21年度+2.5%、22年度+3.7%、23年度+1.6%:本予測のメインシナリオでは、まん延防止等重点措置が3月上旬に全面解除され、その後はワクチンの効果や経口治療薬の普及もあり、安定した感染状況が続くと想定している。実質GDP成長率は21年度で+2.5%、22年度で+3.7%、23年度で+1.6%と見込む。22年度はサービス消費を中心に回復し、Go Toトラベル事業の実施やインバウンドの受け入れ再開もあって4%近い成長率が見込まれる。半導体不足の緩和により0.8兆円程度と試算される国内の自動車の繰越需要の発現が期待されるほか、輸出の増加も景気の追い風となろう。資源高により家計の購買力は低下するものの、約60兆円の過剰貯蓄が影響を緩和するとみている。最大の景気下振れリスクは引き続き変異株の動向だ。新興国等で新たな変異株が出現し、日本などで流行する可能性は今後も十分に考えられる。
- 論点①:成長とWell-beingに見る「人財大国」への課題:OECDが作成しているWell-beingの指標(Better Life Index)を基に多面的に評価すると、日本は教育水準や平均寿命、治安などにおいて世界トップクラスである。諸外国に比べ就労に多くの時間を充てている。それにもかかわらず、付加価値が十分に生み出されていない。ワークライフバランスや男女間の有償・無償労働の格差などが影響しているほか、人的資本への過小投資、成長産業・企業への労働移動の停滞なども低生産性の一因とみられる。希少性を増す人材を「人財」と捉える視点が一層求められ、これらの課題に取り組むことが、岸田政権の目指す「新しい資本主義」の実現につながる。
- 論点②:米国経済のスタグフレーションリスクを検討:米国のスタグフレーション期直前におけるCPIの採用品目を見ると、価格上昇率が前年比+20%を超える品目が顕著に多くなるという特徴が見られた。現在はこれに当てはまらず、家賃など一部品目では価格上昇が続く可能性があるものの、当社のメインシナリオではインフレ率が低下していくと見込んでいる。今後、更なる資源高と労働需給ひっ迫が生じた場合を想定してシミュレーションを行ったところ、米国経済がスタグフレーションに陥る可能性は小さい(いわゆるテールリスク)とみられる。
- 論点③:中国の不動産バブル崩壊のリスク:中国では不動産市場に調整局面入りの兆しが見られる。日本のバブルなど過去の他国の不動産バブル時と現在の中国を比較すると、不動産市況や債務残高、人口動態等に類似性がある一方、融資の動向や政策などでは相違点もあり、現時点で中国経済が急速に悪化するリスクは小さい。仮に中国の不動産バブルが崩壊する場合、産業面では建設業の低迷から製造業への波及に注意が必要となるほか、地域別ではEU、日本、韓国等への影響が大きくなろう。さらに、中国の社会融資総量と経済成長率・純輸出の関係からは、中国の実質GDP成長率がクレジットクランチを通じて▲3%前後低下する可能性がある。
- 日銀の政策:21年度で前年比+0.0%と見込まれるコアCPIは、資源高等の押し上げもあって22年度に同+1.1%に高まろう。こうした影響が一部剥落する23年度には同+0.9%を見込む。予測期間を通じて物価の基調は緩やかな上昇にとどまるため、日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、現在の金融政策の枠組みを維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)公共投資は21年度▲4.5%、22年度+1.5%、23年度+1.8%と想定。
(2)為替レートは21年度112.1円/㌦、22年度115.5円/㌦、23年度115.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は22年+3.8%、23年+2.4%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
主要国経済Outlook 2025年6月号(No.463)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年05月26日
-
世界経済は落ち着きを取り戻すのか
2025年05月26日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日