第212回日本経済予測

景気悪化圧力を乗り越え「人財大国」となるか~①成長とWell-being、②米国インフレ、③中国不動産、を検証

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2022年02月21日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 末吉 孝行
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之
  • 鈴木 雄大郎
  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉
  • 和田 恵
  • 経済調査部 エコノミスト 岸川 和馬
  • 金融調査部 研究員 瀬戸 佑基

サマリー

  1. 実質GDP成長率見通し:21年度+2.5%、22年度+3.7%、23年度+1.6%:本予測のメインシナリオでは、まん延防止等重点措置が3月上旬に全面解除され、その後はワクチンの効果や経口治療薬の普及もあり、安定した感染状況が続くと想定している。実質GDP成長率は21年度で+2.5%、22年度で+3.7%、23年度で+1.6%と見込む。22年度はサービス消費を中心に回復し、Go Toトラベル事業の実施やインバウンドの受け入れ再開もあって4%近い成長率が見込まれる。半導体不足の緩和により0.8兆円程度と試算される国内の自動車の繰越需要の発現が期待されるほか、輸出の増加も景気の追い風となろう。資源高により家計の購買力は低下するものの、約60兆円の過剰貯蓄が影響を緩和するとみている。最大の景気下振れリスクは引き続き変異株の動向だ。新興国等で新たな変異株が出現し、日本などで流行する可能性は今後も十分に考えられる。
  2. 論点①:成長とWell-beingに見る「人財大国」への課題:OECDが作成しているWell-beingの指標(Better Life Index)を基に多面的に評価すると、日本は教育水準や平均寿命、治安などにおいて世界トップクラスである。諸外国に比べ就労に多くの時間を充てている。それにもかかわらず、付加価値が十分に生み出されていない。ワークライフバランスや男女間の有償・無償労働の格差などが影響しているほか、人的資本への過小投資、成長産業・企業への労働移動の停滞なども低生産性の一因とみられる。希少性を増す人材を「人財」と捉える視点が一層求められ、これらの課題に取り組むことが、岸田政権の目指す「新しい資本主義」の実現につながる。
  3. 論点②:米国経済のスタグフレーションリスクを検討:米国のスタグフレーション期直前におけるCPIの採用品目を見ると、価格上昇率が前年比+20%を超える品目が顕著に多くなるという特徴が見られた。現在はこれに当てはまらず、家賃など一部品目では価格上昇が続く可能性があるものの、当社のメインシナリオではインフレ率が低下していくと見込んでいる。今後、更なる資源高と労働需給ひっ迫が生じた場合を想定してシミュレーションを行ったところ、米国経済がスタグフレーションに陥る可能性は小さい(いわゆるテールリスク)とみられる。
  4. 論点③:中国の不動産バブル崩壊のリスク:中国では不動産市場に調整局面入りの兆しが見られる。日本のバブルなど過去の他国の不動産バブル時と現在の中国を比較すると、不動産市況や債務残高、人口動態等に類似性がある一方、融資の動向や政策などでは相違点もあり、現時点で中国経済が急速に悪化するリスクは小さい。仮に中国の不動産バブルが崩壊する場合、産業面では建設業の低迷から製造業への波及に注意が必要となるほか、地域別ではEU、日本、韓国等への影響が大きくなろう。さらに、中国の社会融資総量と経済成長率・純輸出の関係からは、中国の実質GDP成長率がクレジットクランチを通じて▲3%前後低下する可能性がある。
  5. 日銀の政策:21年度で前年比+0.0%と見込まれるコアCPIは、資源高等の押し上げもあって22年度に同+1.1%に高まろう。こうした影響が一部剥落する23年度には同+0.9%を見込む。予測期間を通じて物価の基調は緩やかな上昇にとどまるため、日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、現在の金融政策の枠組みを維持するとみている。

【主な前提条件】
(1)公共投資は21年度▲4.5%、22年度+1.5%、23年度+1.8%と想定。
(2)為替レートは21年度112.1円/㌦、22年度115.5円/㌦、23年度115.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は22年+3.8%、23年+2.4%とした。

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