サマリー
◆中長期的には、楽観シナリオでは電力不足が解消するが、悲観シナリオでは不足が長期に続く。いずれのシナリオにせよ、化石燃料の輸入を増加させる火力発電の拡大は、電力料金を引き上げ、CO2排出量を増加させる。また、再生可能エネルギーはCO2排出量の抑制に寄与するが、その導入のためにはやはり電力料金引き上げによるコストを必要とする。
◆電力供給不足は財やサービスの生産を抑制する。電力料金の引き上げは産業や生活のコストを引き上げ、実質所得を引き下げる。化石燃料の輸入増は外需(純輸出)を減らす。景気の悪化は物価の低迷をもたらす。それらマクロ経済への悪影響を失われる実質GDPで測ると、悲観シナリオの場合、2015年度に向かって19.2兆円まで拡大し、今後10年間の平均では年率14兆円超(標準予測GDPの2.5%)に達すると試算される。
◆本稿の試算では、電力需要側での工夫を考慮せず、原発政策の長期停滞を前提として、電力供給不足問題を保守的に(厳しく)評価した。その場合、楽観シナリオですら、マイナスの影響がある程度表れており、悲観シナリオでの損失は非常に大きい。短期と長期の両面から電力政策の再構築が急がれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済中期予測(2012年1月)
シンクロする世界経済の中で円高・電力・増税問題を乗り切る日本経済
2012年01月23日
-
高齢社会で増える電力コスト
効率的な電力需給システムの構築が急務
2012年04月09日
-
失業リスクが偏在する脆弱な雇用構造
雇用構造がもたらす必需的品目の需要増加と不要不急品目の需要減少
2012年08月10日
-
超高齢社会で変容していく消費
キーワードは「在宅・余暇」「メンテナンス」「安心・安全」
2012年08月10日
-
再生可能エネルギー法と電力料金への影響
電力料金の上昇は再生可能エネルギーの導入量と買取価格次第
2011年09月02日
-
ドル基軸通貨体制の中で円高を解消していくには
ドル基軸通貨体制は変わらない。長い目でみた円高対策が必要
2011年12月13日
-
日本経済中期予測(2011年6月)
大震災を乗り越え、実感ある成長をめざす日本経済
2011年06月16日
-
財政を維持するには社会保障の抑制が必要
社会保障の抑制幅が増税幅を決める
2010年12月21日
-
「実質実効為替レートなら円安」の意味
コスト削減の企業努力は円高・内需低迷・デフレを生んだ
2010年11月10日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年9月消費統計
衣料品など半耐久財が弱く、総じて見れば前月から小幅に減少
2025年11月07日
-
人手不足下における外国人雇用の課題
労働力確保と外国人との共生の両立には日本語教育の強化が不可欠
2025年11月06日
-
消費データブック(2025/11/5号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年11月05日

