サマリー
◆社会保障以外の歳出について名目GDP比一定というルールを長期に適用したとしても、現役層の生産性向上並みに社会保障支出を拡大させれば、公債等残高GDP比は発散的に上昇する。このケースで公債等残高GDP比を消費税増税によって安定化させようとすると、10%台後半、さらには20%台前半への消費税率引上げが必要になる。
◆高齢者1人当たりの社会保障支出を実質額で一定にする歳出抑制を超長期に続ければ、増税を避けつつ公債等残高GDP比を安定化させ、さらに引下げることができる。ただし、公債等残高GDP比の上昇が止まるのは相当先のことになるため、実際には「節度ある財政」の実現とはいえず、歳出抑制と同時に一定の増税が必要と考えられる。また、1人当たり社会保障支出を超長期に一定とするのは極めて厳しく、そこまでの抑制ができなければ、その分の増税も上乗せされる。
◆名目成長率が実質成長率を下回るデフレの下では、長期の社会保障支出抑制を前提としても公債等残高GDP比が上昇し、財政は厳しい状況となっていく。本稿では、インフレによって財政問題を解決すべきと主張しているわけではなく、デフレによって名目成長率が低迷し続けることが財政に与える悪影響は大きいという点を強調したい。
◆長期に社会保障支出を抑制することを前提としたとしても、金利が成長率よりも高めに推移すれば、やはり財政は厳しい状況になる。金利上昇による利払いのための公債発行が財政赤字を拡大させ、それがさらなる金利上昇を招くという悪循環を、財政改革を着実に続けることによって回避する必要がある。なお、デフレであれば名目金利は名目成長率を上回ることになりやすい。この面からもデフレは望ましくない。
◆消費税増税で物価が上昇するとき、年金や医療など社会保障給付を物価スライドさせれば、税収が増える一方で歳出も増える。消費税増税分の物価スライドを実施したのでは、必要になる消費税率の引上げ幅がますます大きくなってしまう。社会保障の財源を確保し、また、全国民で社会保障制度を支えるために消費税増税が必要だとすれば、社会保障給付について消費税増税分の物価スライドを行わず、実質給付を引き下げる必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
高齢社会で増える電力コスト
効率的な電力需給システムの構築が急務
2012年04月09日
-
電力供給不足問題と日本経済
悲観シナリオでは年率平均14兆円超のGDP損失経済社会研究班レポート - No.3 -
2011年07月13日
-
社会保障・税一体改革の課題
~大和総研中期マクロモデルによる増税シミュレーション~『大和総研調査季報』 2011年秋季号(vol.4)掲載
2012年02月01日
-
失業リスクが偏在する脆弱な雇用構造
雇用構造がもたらす必需的品目の需要増加と不要不急品目の需要減少
2012年08月10日
-
日本家計中期予測
~2021年までの経済成長で、税・社会保障の負担増を乗り切る~『大和総研調査季報』 2012年春季号(Vol.6)掲載
2012年07月02日
-
超高齢社会で変容していく消費
キーワードは「在宅・余暇」「メンテナンス」「安心・安全」
2012年08月10日
-
再生可能エネルギー法と電力料金への影響
電力料金の上昇は再生可能エネルギーの導入量と買取価格次第
2011年09月02日
-
ドル基軸通貨体制の中で円高を解消していくには
ドル基軸通貨体制は変わらない。長い目でみた円高対策が必要
2011年12月13日
-
「実質実効為替レートなら円安」の意味
コスト削減の企業努力は円高・内需低迷・デフレを生んだ
2010年11月10日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
-
中国経済:2023年の回顧と2024年の見通し
24年の成長率目標は5%か?達成の鍵は民営企業へのサポート強化
2023年12月21日
-
2024年の米国経済見通し
①個人消費の腰折れ、②インフレ率の高止まり、③政治の停滞がリスク
2023年12月21日
-
2024年度税制改正大綱解説
定額減税は経済対策としては疑問だが、インフレ調整策としては有効
2023年12月25日
-
四半期報告書の廃止に関する改正法の成立
四半期報告書が廃止された後の四半期決算短信の内容は?
2023年12月04日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
中国経済:2023年の回顧と2024年の見通し
24年の成長率目標は5%か?達成の鍵は民営企業へのサポート強化
2023年12月21日
2024年の米国経済見通し
①個人消費の腰折れ、②インフレ率の高止まり、③政治の停滞がリスク
2023年12月21日
2024年度税制改正大綱解説
定額減税は経済対策としては疑問だが、インフレ調整策としては有効
2023年12月25日
四半期報告書の廃止に関する改正法の成立
四半期報告書が廃止された後の四半期決算短信の内容は?
2023年12月04日