サマリー
◆日本の完全失業率は緩やかな改善傾向にあるものの、20年といった長いスパンで捉えれば、むしろ趨勢的に上昇している。本レポートでは、その背景にある日本の雇用構造の変化と、それが経済に与える影響を分析した。
◆デフレ下の名目賃金硬直性に直面した日本企業は、以前に比べて賃金調整が困難になり雇用調整を行う傾向が強まったとみられる。日本的雇用慣行が維持される中で、企業は採用抑制や希望退職を募集することで正規雇用を調整しつつ、正規よりも賃金が低く雇用調整を行いやすい非正規雇用を増やしてきた。
◆正規雇用が増えずに非正規雇用だけが増加する状況では、雇用のミスマッチの拡大が失業期間の長期化と同時に発生している。その結果、構造的失業率は趨勢的に上昇し、2011年では完全失業率の約3分の2を占めている。非正規雇用者比率は若年層を中心に上昇しており、正規社員を希望する若年男性が多い。ただし、企業には足下で200万人程度の雇用保蔵者が存在するとみられるため、短期的には正規雇用の拡大が期待しづらい状況にある。
◆雇用構造の変化が個人消費や住宅投資へ与えている影響は無視できないほど大きくなっていると考えられる。雇用形態別に所得・消費構造の特徴を整理すると、近年の非正規雇用者比率の上昇は必需的な品目への需要を増加させ、不要不急の品目への需要を減少させているとみられる。また、低所得にもかかわらず将来不安から予備的貯蓄を行う世帯が増加していることは、平均的な需要の価格弾力性を高めている可能性がある。
◆短期的に脆弱な雇用構造を改善させることは難しい。しかし中期的には、政府が自由貿易協定の締結などを推進することで雇用創出力が増し、正規雇用の増加に繋がるとみられる。また、サービス業へ労働力が移動しやすい環境を整備する必要もある。「正規」と「非正規」の垣根を低くし、失業のリスクを社会全体でシェアするような仕組みを目指すことも必要であろう。
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