「株価が上がれば消費を増やす米国人」のウラ

2018年2月8日

なぜ米国で多くの家計が株式を保有しているのかという疑問には、相場が上昇してきたから、というのも答えの一つであろう。だが、制度貯蓄が定着し、積立投資が行われるようになると、日々の積立金が安定した買い主体となって相場の変動を小さくし、相場下落への警戒感が低下している面もあるのではないだろうか。米国では、確定拠出年金などの退職貯蓄が、積立投資を行う定期的な買い主体である。相場が上がったから売る、下がったから買うのではなく、ドルコスト平均法を実践しているだけなのだが、結果的に下げ相場で安値を拾うことが将来の資産を増やすことにつながる。そもそも原則は長期にわたって引き出せない資金なので、一時的な相場変動よりも長期的な経済成長の方が重要である。

2016年末で、米国の退職貯蓄は名目GDPの約1.4倍である。公的年金は含まず、この比率を日本に当てはめると、700兆円規模の年金資産を積み上げていることになる。日本の私的年金の規模は160兆円程度で名目GDPの約0.3倍、年金保険を合わせると260兆円程度で名目GDPの半分弱となる。米国との比較は困難になるが、さらに公的年金を合わせると470兆円程度となって、それでも名目GDPの約0.9倍である。

日本の年金は少ないように見えるが、多額の現預金を保有する日本の個人は、心の中で「この預金は何かあった時の備えであり、何もなければ老後のため」、となんとなく勘定を分けて、預金などを事実上の年金として扱っているのではないか。日本の家計が世界的に多額の現預金を保有し、かつ増え続けている特異な傾向がみられるのは、かつては税制優遇され、それなりの金利が付いていたこともあるだろう。だが、現預金が私的年金の一部だとすれば、足下では所得の一部をさらに現預金として積み上げていく必要がある。今や金利収入はほとんど期待できないが、金利収入を期待できないということは、割引率の低下と同義であり、現時点で必要な年金積立金が増えてしまうことを意味するためだ。さらに、公的年金への不信を賄う分も必要だろう。こう考えると、日本の年金資産の少なさと現預金の多さのつじつまが合う。そして、今の消費に回せる余裕が低下する。

近年、老後の備えに向けた制度整備が進んできた。相場変動に一喜一憂することなく資金を積み立てていくと、新規積立て分が下げ相場で安値を拾い、相場を安定させる効果をもたらし、長期的な経済成長に向けたより重要な議論ができるようになるだろう。企業の創業期や事業再生のために必要なエクイティ性の資金の出し手にもなる。長期資金がリスクを取ることで長期的な成長につながると、年金資産のリターンが高まり、老後を豊かにする。また、現時点で必要な年金積立額は小さくなって、今の消費を増やすこともできるようになる。「株価が上がれば消費を増やす米国人」は、単純なようだが裏づけのある行動と言える。

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