この混乱は序章に過ぎない

2016年2月1日

  • エコノミック・インテリジェンス・チーム エコノミスト 小林 俊介

前回のコラム(11月16日付(※1))において、Fedは利上げに踏み切る一方、資産圧縮懸念を後退させるようなハト派的なガイダンスを出してくるとの見方を提示した。実際に12月16日の声明文からは指摘した通りの文言が追加され、この点において執筆内容は概ね的を射ていたように思う。他方で若干想定外の動きを見せたのは社債金利だ。12月の政策決定は直接的には社債スプレッドの低下要因になるはずであったにもかかわらず、現実において社債スプレッドはむしろ大きく拡大した。この「スプレッド・コナンドラム」とでも呼ぶべき状況は何故発生したのだろうか。

これは結局のところ、強すぎる利上げ懸念が市場の歯車を狂わせてしまったのだと理解している。まず12月のFOMCでボードメンバーから提示された年4回という利上げ見通しがあまりにも強すぎる。結果としてのドル高と、その表裏一体の現象として中国からの資金流出を伴う人民元安が発生している。これら(金利上昇・ドル高・中国の苦境)が原油価格のさらなる下落を引き起こし、資源関連企業などを含むハイイールド債の金利が高騰した。結果として株価が下落し、リスクオフセンチメントが助長され、ベアサイクルが発生したという整理である。

この見地に立てば、今般の市場の混乱は、問題の根底にある拙速すぎる利上げ懸念が後退すれば一旦収束する公算が高い。債券市場は既に2016年に1-2回しか利上げできないことを織り込みつつある。この背景としては市況が大きく悪化している中で利上げが困難になるとの見方もあろうが、前回のコラムでも指摘したように、そもそも米国経済は加速・過熱するほどの力強さを有していない。1月27日のFOMCにおける声明文には市場を安心させきるほどのハト派的ガイダンスは見られなかったが、今後イエレン議長の議会証言などを経てFedの適切なコミュニケーションが浸透すれば、市場は落ち着きを取り戻すだろう。

むしろ本当の試練は、もう少し先で待ち受けているように見える。米国企業の債務残高は、たとえばGDP比でみてITバブル崩壊前夜やリーマンショック前夜に遜色ない水準にまで到達している。これは過去のQEにより社債コストが抑制され、株式資本コストを下回り続けた結果として自社株買い・M&Aが積極的に行われてきた=企業債務のレバレッジがかかり続けてきた結果だ(※2)。しかしその扇の要となってきたQEは大統領選挙を控えた特に共和党候補者らの批判の的となっている。これは政策介入の結果としてバブルを発生させているという論拠に加え、今回の「利上げ」が過去のものと本質的に全く異質のものであるということにも依拠している。

今回の「利上げ」は、乱暴な言い方をしてしまえば金融政策ではなく、財政政策だ。通常の利上げに求められる、ドルの供給量を絞るというオペレーションは、今回において主要な金融調節手段とはならない。かわりにFedに預け入れられている準備預金(のうち超過準備)に支払う金利の引上げが主要な役割を果たす。結果として米国連邦政府は莫大な財政支出を余儀なくされるのである。こうしたオペレーションが感情的な世論の批判に晒されやすいことは想像に難くない。政治的逆風の中でFedがバブルの軟着陸という困難な試練にどう立ち向かっていくのか―これこそが2016年の最大のテーマではないだろうか。だとすれば、この混乱は序章に過ぎない。

(※1)「そしてグランドフィナーレが幕を開ける」
(※2)従って前述の社債スプレッドの高騰を放置すると、このレバレッジが逆回転を起こす可能性が高い。このため逆説的ではあるが、Fedは事態がアンダーコントロールである間に市場の混乱を緩和するインセンティブを有している。

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