ボルカー・ルールはどう働くか?

マクロ・プルーデンス政策の重要性は変わらず

2013年12月20日

12月10日、米国金融当局(FRB、商品先物取引委員会、連邦預金保険機構、通貨監督庁、SEC)はいわゆるボルカー・ルールについての最終規則案を決定した。銀行規制の考え方としてのボルカー・ルールは、2010年に成立したドッド・フランク金融改革法に含まれており、今年12月を期限として最終案を練ることとなっていた。ボルカー・ルールは銀行と証券の分離というかつてのグラス・スティーガル法の時代に戻そうというわけではない。しかし、銀行に対して、自己勘定取引を制限し、デリバティブやファンド、商品先物の取引も規制することで、銀行の銀行勘定を金融市場の価格変動リスクに大きく晒さないことが目的となっている。その意味では、グラス・スティーガル法の目的と同様であるが、それを現在の金融ビジネスの現実と妥協した形で、つまり厳格な銀行と証券の分離までは求めずに、ルール作りを行おうとしたものである。

ボルカー・ルールは2014年4月1日に施行される予定であるが、FRBは適合期間を2015年7月21日に延長している。銀行等がルールへの対応のために対策を行っていく時間的な余裕は多少あるといえるだろう。

ドッド・フランク金融改革法は2010年に成立していたので、ボルカー・ルールについてそれから長期間にわたって協議が続けられていた。協議では言葉遣いについての議論が相当に行われていたと伝えられている。規制ルールにおける言葉遣いの違いにより実際の細則や規制の適用の実務においてかなり違った対応になる可能性があるので、慎重な検討がされたのであると思われる。

全体で950ページ程度となるルールの最終案文書をすべて短時間で理解するのは筆者の能力を超えているので、Fact Sheet等から得られたルールの骨格について、まず、どう評価すべきかを考えてみたい。

最終案では、一般的に銀行業を行う主体に次のことを禁ずるとしている。

  1. ①短期的な自己勘定による証券、派生商品、商品先物およびこれらのオプションの取引
  2. ②カバーしているファンドとして、ヘッジ・ファンドまたはプライベート・エクイティ・ファンドを所有したり、スポンサーしたり、何らかの関係を持つこと

前者に関して、引き受け、マーケット・メーク、リスク低減のためのヘッジ、米国債および一定の条件のもとでの外国国債等、外国銀行による取引、その他(一定条件のもとでの顧客のための取引など)について適用外としている。

後者に関しては、SEC登録の投資会社や事業開発会社に加え、完全子会社、ジョイント・ベンチャー、買収手段を適用外としている。また一定の適切な条件のもとで、ファンドの販売や引き受け、マーケット・メーキング、リスク低減のヘッジ、すべて外国で行われる取引などに関連して、ファンドを購入することは許容されるとしている。

断言はできないが、これらの例外規定は、銀行が自らの勘定で取るリスクを過大にさせないというルールの趣旨から考えて、適切な条件設定がされれば、しり抜けになるような項目ではないだろうと思われる。また、こうした例外規定を設けたことで、銀行が価格変動リスクを過大に取らずに証券市場におけるフィービジネスを継続していける枠組みとなっている。このことから、ボルカー・ルールは銀行が行う付加価値サービスを委縮させるものにはならないだろう、と言うことができるのではないか。

銀行業を営むものに過大な価格変動リスクを取らせないという規制は、決済システムを守るという点、および危機に伴って公的資金を注入しなければならなくなるリスクの回避という点で、納得性がある。一方で、銀行などが証券市場等において自らの勘定では大きなリスクを取れない、ということは、証券市場の価格形成において一定の影響をもたらすだろうと思われる。どちらかといえば、多くの証券について価格形成はより慎重に、つまりリスクプレミアムが高めとなる作用があるのではないだろうか。銀行資金は年金や保険などに比べて短期的となる傾向があり、その流入が基本的には禁止された状態となることは、価格形成がより長期的な観点から行われるようになる可能性も一定期待できるかもしれない。ただし、価格変動が穏やかなものとなるかどうかは、一概には言いづらい。ボルカー・ルールはヘッジ・ファンドなどのアクティビティそのものを規制するものではないので、ヘッジ・ファンドなどを通じて外国の資金が大きく流入、あるいは流出したりすれば、その影響は免れない。そうした資金移動はマクロ的な経済、金融環境により大きく依存する。

ボルカー・ルールは主に決済を担う銀行の自己勘定の健全性を保とうとするものなので、金融市場そのものの安定をもたらすことまでは期待されていない。金融市場の安定、また金融システム機能が正常に作用する環境のためには、マクロ・プルーデンス政策の重要性も忘れられてはならない。バブルかそうでないかを線引きすることは難しいかもしれないが、資産市場の状況について、定性的または定量的な分析が不可能なわけではない。国によって事情の違いがあると思われるが、市場の分析能力を持つ金融当局が、一般的な金利や量的金融政策を調整するだけでなく、自己資本比率規制やレバレッジ規制などを通じて市場におけるシステミック・リスクの上昇を抑制し、かつリスクの発現時に機動的な対応を取ることが大切である。また、国際資金移動が活発となった今日、これには国際的な協調体制が必要になっている。適切なマクロ・プルーデンス政策が行える体制を構築することの重要性は、ボルカー・ルールの導入によっても変わらないと思われる。

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