サマリー
- 実質GDP成長率見通し:24年度+1.0%、25年度+1.4%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は24年度+1.0%、25年度+1.4%(暦年ベースでは24年+0.4%、25年+1.7%)と見込む。春闘賃上げ率の大幅引き上げもあり、実質賃金の前年比は24年7-9月期にプラス転換するだろう。定額減税や自動車の挽回生産、インバウンド需要の増加、高水準の家計貯蓄、シリコンサイクルの回復などが日本経済を下支え・押し上げるとみられる。海外経済の下振れリスクには引き続き細心の注意が必要で、国内金利の上振れや円高の急速な進行の可能性もある。
- 日銀の政策:日銀は経済・物価情勢を注視しつつ、緩やかなペースで追加利上げを実施するだろう。メインシナリオでは24年10-12月期に短期金利を0.25%に引き上げ、25年以降は年0.50%(年2回)のペースで利上げを行うと想定している。円安の進行で物価の上振れリスクが高まった場合、国債購入ペースの柔軟化または購入額減額を通じ、長期金利を上昇させるとみている。
- 論点①:実質賃金加速の効果:消費の伸び悩みは、インフレと労働分配率低下によって実質可処分所得が減少しているためだ。だが、物価上昇の賃金への転嫁率は0.94程度に高まっており、労働分配率も長期平均の50%近傍まで低下した。実質賃金の水準はすでに底打ちした可能性もある。実質賃金が1%増加すれば消費は0.5%増加すると試算されるが、足元の株高の影響を加味すれば消費は0.9%程度増加する可能性もあろう。所得弾性値は耐久財消費が0.8、サービス消費が1.1程度で、これらを中心に消費の伸びが期待される。
- 論点②:貿易・サービス収支が抱える「5つの構造的課題」:日本の構造的な貿易・サービス赤字の背景を整理すると、①電気機械を中心とした国際競争力の低下、②産業空洞化、対日直接投資の停滞、③デジタル関連を中心とした輸入依存度の高まり、④エネルギー価格の高騰、原発停止、がある。さらに貿易構造の脆弱性に関するリスクとして、⑤輸出入両面での中国依存度の高さ、も指摘できる。貿易・サービス収支は中長期的に赤字基調が続き、赤字幅は拡大する見込みだ。収支構造の強靱化や国際競争力の維持・強化に向けて、上記の5つの課題に政策対応する必要がある。
- 論点③:「トランプ・リスク」をどうみるか:米大統領選ではトランプ氏が優勢と伝えられ、「トランプ・リスク」が話題となっている。仮に、関税引き上げや移民規制等に関する同氏の主張が実現する場合、米国の経済面の影響を試算すると最大でGDPが▲3.40%、インフレ率が+2.75%ptと大きくなるおそれがある。前回トランプ政権時の実績や減税への期待などから一部に楽観ムードもあるものの、今回主張されている関税等の経済への影響は前回政権時よりも大きくなるとみられ、注意が必要だ。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資:24年度+2.6%、25年度+2.3%
(2)為替レート:24年度156.0円/㌦、25年度156.3円/㌦
(3)原油価格(WTI):24年度80.1ドル/バレル、25年度79.8ドル/バレル
(4)米国実質GDP成長率(暦年):24年+2.5%、25年+2.0%
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