サマリー
- 実質GDP成長率見通し:24年度+0.8%、25年度+1.3%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は23年度+1.3%、24年度+0.8%、25年度+1.3%(暦年ベースでは24年+0.4%、25年+1.4%)と見込む。24年春闘での賃上げ率は4%台に乗せる可能性があり、実質賃金の前年比は24年7-9月期にプラス転換するだろう。賃上げと価格転嫁の循環により、基調的なインフレ率は2%程度で安定すると見込んでいる。自動車の挽回生産、インバウンド需要の増加、サービス消費の回復、高水準の家計貯蓄、シリコンサイクルの回復、所得減税を含む総合経済対策などが日本経済を下支え・押し上げるだろう。海外経済の下振れリスクには引き続き細心の注意が必要で、国内金利が想定よりも上振れしたり、円高が急速に進んだりする可能性も考えられる。
- 日銀の金融政策:日銀は24年4月にイールドカーブ・コントロールの撤廃とマイナス金利政策の解除(短期金利を0~0.1%に引き上げ)を行い、その後は経済・物価情勢を注視しつつ、緩やかなペースで利上げを実施すると想定している(24年10-12月期に短期金利を0.25%とし、その後は年0.50%のペースで追加利上げ)。ただし、実質短期金利は予測期間を通じてマイナス圏で推移するなど緩和的な金融環境は維持されるだろう。
- 論点①:デフレ脱却後の日本経済の姿:日本の自然利子率は1980年代から直近の2023年7-9月期にかけて2.6%pt程度低下した。背景には、期待成長率の低下に伴う設備投資の減少や民間貯蓄の積み増しなどがあったとみられる。この結果、金融緩和効果が減殺され、日本経済はデフレ均衡に陥ったが、足元ではインフレ均衡に移行する可能性が高まっている。自然利子率は政策対応によって1%pt程度の上昇余地があり、中長期的には「高成長・インフレ均衡」への移行も考えられる。デフレ均衡とインフレ均衡で期待される実質GDP成長率は年率+0.6~0.7%程度にとどまるが、「高成長・インフレ均衡」では同+1.1%程度となる。インフレ均衡への移行だけは成長率はさほど高まらず、各種政策の成果を積み上げることで「高成長・インフレ均衡」を目指すことが重要だ。
- 論点②:人手不足をテコに「投資と実質賃金の好循環」実現を:労働者数の潜在的な増加余地を表す「余剰労働力」は30万人程度まで減少しており、人手不足は長期化する見通しだ。名目時給1%の上昇は設備投資を0.4%促進すると推計されるが、資本ストックの最適水準との乖離(200兆円程度)を埋めるには力不足である。情報通信機器やソフトウェアなど費用対効果の高い投資に対する政策的支援が引き続き必要だ。日本企業は米国企業に比べて対外直接投資が多い一方、人的資本投資は少ない。人的資本投資を増やすことで労働生産性を効率的に引き上げることもできるだろう。また、正規雇用への転換によって非正規比率が5%pt低下すれば、潜在GDPは1.6%増加すると試算される。実質賃金の引き上げを通じて所得見通しが改善し、勤労者世帯の平均消費性向がコロナ禍前の水準まで上昇すれば、個人消費は7~10兆円程度押し上げられる。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資:23年度+5.7%、24年度+1.9%、25年度+2.5%
(2)為替レート:23年度144.6円/㌦、24年度150.2円/㌦、25年度150.2円/㌦
(3)原油価格(WTI):23年度77.8ドル/バレル、24年度79.2ドル/バレル、25年度79.2ドル/バレル
(4)米国実質GDP成長率(暦年):23年+2.5%、24年+2.0%、25年+1.7%
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