サマリー
- 実質GDP成長率見通し:20年度▲6.0%、21年度+3.4%:4-6月期の実質GDPは前期比年率で▲27.8%と戦後最大の落ち込みを記録した。7-9月期は前期比年率+13%を見込むが、4-6月期のGDP減少額の約4割を埋めるにすぎない。その後の回復ペースは緩やかなものにとどまろう。本予測のメインシナリオでは、一定の感染拡大防止策が継続的に実施されると想定し、20年度の実質GDP成長率を▲6.0%と見込んでいる。だが日米欧で感染爆発が生じ、全国的な緊急事態宣言の再発出やロックダウン等を余儀なくされれば、景気は二番底をつけ、同年度の実質GDP成長率は▲9.3%へと悪化する見込みだ。この場合、倒産する企業が急増して金融危機に発展する恐れがある。仮に世界恐慌並みの金融危機が起これば、20年度の実質GDP成長率は▲16%程度まで悪化する可能性がある。
- 論点①:ウィズコロナ下の社会経済活動引上げの課題:日本を初め多くの国では、社会経済活動と感染拡大防止の両立が課題となっている。この分野の経済理論から評価すると、緊急事態宣言中の個人消費の抑制は過大だった可能性がある。現在は緊急事態宣言が発出された4月とは異なり、社会経済活動と感染拡大防止の両立を図る余地は大きくなった。全都道府県への緊急事態宣言を直ちに再発出する段階にはなく、感染状況に応じてメリハリの利いたピンポイントの感染拡大防止策を適宜講じるべきだ。政府は需要喚起策の在り方について整理するとともに、感染爆発を回避するための感染拡大防止策の枠組みについて具体的に示す必要があろう。
- 論点②:感染拡大が潜在成長率に与える影響:コロナショックによる需要の急減を受け、とりわけ対面を伴うサービス業で設備のストック調整圧力が高まっている。だが、それらの業種が設備投資全体に占める割合は低いことに加え、一部業種ではコロナ禍が設備投資に対しプラスに働くとみられ、マクロのストック調整圧力は限定的である。労働投入に関しては、労働参加率、労働時間ともに足元で落ち込んでいるものの、経済活動の正常化に伴い元のトレンドへと回帰する公算が大きい。ただし、感染拡大による活動自粛が長引けば、ストック調整は深刻化し、労働投入も下振れするリスクがある。標準シナリオでは、潜在成長率はゼロ近傍ながらプラス圏を維持する見込みだが、感染拡大が収束しなければ、大幅なマイナスとなることは免れないだろう。
- 補論:「不動産バブル」崩壊の懸念はあるのか:コロナショックを受けて不動産市況にも変調が見られる。不動産の収益性を表すキャップレートは近年の最低水準であり、注意が必要となる。ただし、リーマン・ショック時とは異なり国債利回りとのスプレッドは十分に拡大しており、当面は地価急落に波及する懸念は小さい。なお、コロナ禍の中で大都市への一極集中を見直す機運が高まっている。社会構造の変化により、大都市の地価には中長期的に軟化圧力がかかる可能性があろう。
- 日銀の政策:予測期間中のCPIは、20年度、21年度ともに前年割れが見込まれる。景気回復の足取りは重く、当面は企業への資金繰り支援の必要性が強い。そのため日銀は極めて緩和的な金融政策を継続しつつ、必要に応じて追加の緩和策を実施するとみている。
【主な前提条件】
(1)公共投資は20年度+1.6%、21年度+1.3%と想定。
(2)為替レートは20年度106.8円/㌦、21年度106.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は20年▲5.6%、21年+3.5%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
第227回日本経済予測(改訂版)
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年12月08日
-
主要国経済Outlook 2025年12月号(No.469)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年11月26日
-
トランプ関税の世界経済への影響は限定的なのか
2025年11月26日
最新のレポート・コラム
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
開示府令の改正案が公表(2026年から一部適用)
有価証券報告書のサステナビリティ情報、人的資本、総会前開示に関する改正案
2025年12月10日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
議決権行使助言業者への依拠は共同保有認定
米国SECのウエダ委員が議決権行使助言業者規制の方向性を明らかに
2025年12月09日
-
日中関係悪化、中国は自国経済・社会の不安定化回避を優先か
2025年12月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

