サマリー
- 実質GDP成長率見通し:22年度+2.6%、23年度+1.8%:本予測のメインシナリオでは、新型コロナウイルスの感染症法上の扱いの見直しや、ワクチン追加接種の効果などもあって経済活動の正常化が進展するとの想定の下、実質GDP成長率は22年度で+2.6%、23年度で+1.8%と見込む。輸出を中心に下振れリスクが大きいものの、①日本人のサービス消費、②インバウンド消費、③自動車生産、の3つの回復余地の大きさなどから、厳しい外部環境が続く中でも比較的高いプラス成長が続く見込みだ。自動車向けの半導体不足は2023年中に解消すると見込まれ、コロナ関連の制度見直しや新型ワクチンの普及は旅行や外食、娯楽などの需要を底上げするだろう。
- 論点①:「資産所得倍増プラン」の具体策と期待される効果:日本の家計は2,000兆円超の金融資産を保有しているものの有価証券保有が少ないため、資産所得による可処分所得の押し上げ効果が諸外国に比べて小さい。「資産所得倍増プラン」は資産所得面からも「成長と分配の好循環」を目指す施策として評価できる。仮に5年間で「現役期の中間層」の資産所得の倍増を目指すNISAの抜本的拡充策を行うと、新たに720万世帯が1世帯あたり年11.7万円の資産所得を得て、GDPを0.2%程度押し上げる可能性がある。
- 論点②:10年目を迎えた日銀の「量的・質的金融緩和」の成果と課題:「量的・質的金融緩和」の導入後、日本銀行は金融緩和を粘り強く続けてきた。現在の枠組みであるイールドカーブ・コントロールは2017~19年度の3年間で実質GDPを13兆円、CPIを0.4%押し上げたと試算される。当面は比較的大きな政策効果を発揮するだろう。しかし、物価安定目標の達成には至っておらず、出口への道筋の不透明性など課題は多い。出口戦略を円滑に進めるためには政府の財政再建も重要であり、政府との共同声明に立ち返って「持続可能な財政構造」を確立することが求められる。また、低金利の長期化が産業の新陳代謝の低下を通じて潜在成長率を押し下げるリスクにも注意が必要だ。
- 論点③:米中経済減速リスク:日本経済のリスクとして、①米国の景気後退、②中国での再ロックダウンに注意が必要である。NBERの基準に照らせば、現状、米国は景気後退に陥っているとは言い難い。当社のメインシナリオでは米国の景気後退入りは回避されると見込んでいるが、FRBがインフレ抑制を優先し、金融引き締めを継続すれば、2023年前半にも景気後退に陥る可能性が高まるだろう。中国の再ロックダウンは、輸出の減少および供給制約によって日本経済を下押しする。もっとも供給制約による影響は一時的である可能性が高く、ロックダウン解除後は挽回生産が期待される。仮に中国が2022年10-12月期に再びロックダウンを実施した場合、中国の需要減少によって、2022年の日本の実質GDP成長率は0.5%pt程度下押しされるとみられる。
- 日銀の政策:21年度で前年比+0.0%と見込まれるコアCPIは、資源高等の押し上げもあって22年度に同+1.3%に高まろう。こうした影響が一部剥落する23年度には同+0.9%を見込む。一時的なインフレの加速を見込むが、物価の基調は予測期間を通じて緩やかな上昇にとどまるため、日銀はコロナ危機対応策を段階的に縮小させる一方、現在の金融政策の枠組みを維持するとみている。
【主な前提条件】
(1)名目公共投資は22年度+2.2%、23年度+3.8%と想定。
(2)為替レートは22年度133.8円/㌦、23年度135.1円/㌦とした。
(3)原油価格(WTI)は22年度94.3ドル/バレル、23年度88.1ドル/バレルとした。
(4)米国実質GDP成長率(暦年)は22年+1.7%、23年+0.9%とした。
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