サマリー
◆日本、韓国、台湾の男女別年齢別労働参加率を比較すると、台湾は男女ともに50歳以降の労働参加率が大きく低下するという特徴がある。これには、早期退職を選択できる年金制度や、老後の生活に対する台湾(中華圏)独特の伝統的価値観により、中高年が労働市場からの早期退出を選択していることが大きく影響している可能性が高い。老後に対する台湾の伝統的価値観では、子どもが老いた親を扶養するのが当たり前で、親にも老後は子どもが面倒を見てくれるとの期待は高い。しかし、少子高齢化の急速な進展は、こうした伝統的価値観が、遠くない将来に持続不可能となることを示している。
◆台湾でも、今後、少子化対策、労働力としての女性・中高年の活用、さらには年金など社会保障の問題が極めて重要になることは、明白である。既に、台湾では「拠出額増加、給付額減少、受給年齢引き上げ」を柱とする年金制度改革が実行されようとしている。年金受給基本年齢は、現在の60歳から2018年に61歳となり、以降、2年毎に1年引き上げられ、2026年には65歳に引き上げられることになっている。
◆今後、中高年の労働参加率を引き上げることが極めて重要な課題となる。具体策としては、①中高年人材データベースの構築と迅速な就職(再就職)情報サービスの提供、②パートタイム等による雇用促進、③中高年向け研修・トレーニングの拡充、などがある。
◆台湾の中高年の就業問題では、高齢になっても働くのは「不幸」であるとの社会通念の打破が最も難しいのかもしれない。しかし、少子高齢化の急速な進展は、中高年の就業維持を不可欠なものとし、産業構造の高度化や人々の高学歴化は、それを可能とする条件を提供しようとしている。年金制度改革では、早期退職による年金減額と受給年齢引き上げによる年金増額というメリハリが付けられる。今後、中長期的に台湾の50歳以降の労働参加率がどのように変化していくのか、注視したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
高年齢者雇用グローバルレポート
収斂する各国の政策 ~より長く働くために~
2015年07月17日
-
高年齢者雇用レポート③スウェーデン:「より長い労働人生」の実現へ
高い国民の就労意識と制度が促す高齢者雇用
2015年07月14日
-
高年齢者雇用レポート④スイス:改めて注目される中高年雇用
2014年2月の国民投票で移民流入数への上限設置を採択
2015年07月14日
-
高年齢者雇用レポート⑤ドイツ:55歳以上の就業率が顕著に上昇
労働力確保が大きな政治課題
2015年07月14日
-
高年齢者雇用レポート⑥英国:長期就業文化の定着
就業継続を希望する高齢者とそれを支援する政府の意向が一致
2015年07月15日
-
高年齢者雇用レポート⑦フランス:根強い早期引退文化
高齢者の就業促進政策へ舵を切るが、道半ば
2015年07月15日
-
高年齢者雇用レポート⑧イタリア:消えゆく年金天国
制度改革が国民の就労意識の変化をもたらすか
2015年07月15日
-
高年齢者雇用レポート⑨米国:労働市場で存在感を増す高齢者
高齢者労働を促す各種政策も注目
2015年07月16日
-
高年齢者雇用レポート⑩韓国:高齢者の高い労働参加率と貧困問題
賃金ピーク制が徐々に状況を改善か?
2015年07月16日
-
高年齢者雇用レポート⑫シンガポール:高齢者の就労ますます重要に
自立を促す政策と問題点
2015年07月16日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
FISC、「金融機関によるAIの業務への利活用に関する安全対策の観点からの考察」の公表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月17日
-
IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度『JC-STAR』の開始
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月16日
-
2025年度のPBはGDP比1~2%程度の赤字?
減税や大型補正予算編成で3%台に赤字が拡大する可能性も
2025年01月15日
-
『ICTサイバーセキュリティ政策の中期重点方針』の公表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月15日
-
ASEAN最大のグローバルサウス・インドネシアのBRICS加盟が意味することは?
2025年01月17日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
-
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
「トランプ関税2.0」による日本経済への影響試算
中間財の出荷減や米国等の景気悪化で日本の実質GDPは最大▲1.4%
2024年12月18日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第3版)
様々な物価・賃金指標を用いる案および住民税分離案を検証
2024年12月04日
長寿化で増える認知症者の金融資産残高の将来推計
金融犯罪を含む金融面の課題やリスクへの対応も重要
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日