サマリー
◆韓国の高齢者の労働参加率は国際的に見ても際立って高い。これは、(1)現役(正規雇用)で働く期間が短く、老後のための資産形成などが不十分であること、(2)年金制度導入から年数が浅く、満額受給は2028年以降となること、に加え、(3)子どもによる親の扶養能力が大きく低下していること、などを背景に、高齢者が経済的必要に迫られて働いているためである。この点で、韓国の高齢者の就業問題は、労働参加率をさらに引き上げることではなく、待遇をどう改善していくかが極めて重要である。
◆こうした状況を打破するには、賃金水準の高い現役(正規雇用)時代を長期化し、定年を延長することなどが考え得るが、物事はそう単純ではない。年功序列型の賃金体系を有する韓国では、定年を延長する代わりに賃金は減少する賃金ピーク制の導入が奨励されている。賃金ピーク制とは、従業員が一定年齢を超えた後に、賃金を削減する代わりに、定年を延長したり、再雇用を行うもので、賃金が削減される従業員に政府が支援金を支給(雇用を延長する事業主にも一定程度の支援金を支給)する制度である。しかし、従業員にしてみれば、企業側に賃下げの口実を与え、退職金が減るとの懸念が大きい。
◆結局、賃金ピーク制を本格的に導入し、しかも労働者の大幅な賃金減少を避けるには、政府負担をある程度増大させるしかない。韓国政府は財政の健全性との兼ね合いでぎりぎりの妥協点を見出す必要がある。中長期的に、生産年齢人口が減少していく韓国では、高齢者を含めた労働力の確保はいずれ重要な課題となるはずであり、時間の経過とともに賃金ピーク制が機能していくことが期待される。
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