サマリー
◆ドイツでは最近10年で55歳以上の就業率が男女とも明確に上昇している。「欧州2020」に掲げられた「20-64歳の就業率をEU全体で75%に引き上げる」との目標達成のため、ドイツは自国目標を77%に設定しているが、2013年の就業率は77.3%、2014年は77.7%とすでにこれを達成してしまった。目標達成に大きく貢献したのが、55歳以上の就業率の上昇である。
◆55歳以上の働き方の特徴としては、法定年金(公的年金)の受給開始年齢である65歳になるまでは55歳以前からの仕事を継続する人が多いと見受けられる。年金受給が可能になると、それをきっかけに退職するのがまだ多数派だが、最近は自営業者や専門性の高い技術を持つ人を中心に65歳を超えても働き続ける人が増えつつある。ただし、65歳以上で働く人はフルタイムよりパートタイムを選択することが多い。
◆より高齢まで働くようになった背景には、まず政府の政策転換が存在する。1980年代は早期退職を奨励していたが、高齢化・少子化に東西ドイツ統一が重なって年金財政の負担増が懸念されたため、早期退職奨励の是正が図られるようになった。さらに、EUの東方拡大を目前に控えた2000年代初めに、ドイツの雇用コスト抑制が急務と考えられたことから年金保険料負担に上限が設けられた。その後、法定年金の受給開始年齢を65歳から67歳へ引き上げることも決定され、現在はその移行期間中である。このほか、高学歴化でより高齢まで働く選択肢を有する労働者が増える一方、高技能労働力の不足を背景に高齢でも働き続けてほしい企業も増えている。政府は「67歳まで働く」をキーワードとして、中高年向けの職業訓練の拡充や、中高年層を再雇用した際の賃金補填制度の導入などを進めてきている。
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