サマリー
◆スイスの男性の労働参加率は、2003年時点で55-59歳は90.0%、60-64歳は66.4%とすでに高水準だったが、2013年にはそれぞれ91.2%と72.0%へさらに上昇している。なお、65-69歳では20%台半ばへ急低下するが、これは公的年金の受給開始年齢が男性は65歳であるためで、年金制度が充実しているスイスでは年金受給が始まれば、そこで仕事を辞める人が多い。
◆一方、女性の労働参加率は男性より総じて低いが、2003年と2013年を比較するとその差は縮小しており、特に50-59歳の女性の労働参加率上昇が目立つ。女性の社会進出と平均寿命長期化に加え、年金受給開始年齢が2000年までの62歳から段階的に引き上げられ、2005年以降は64歳となったことが背景にある。2013年の女性の労働参加率は、55-59歳は78.3%、60-64歳は51.6%、65-69歳は16.2%である。
◆スイスの中高年の就業率は欧州の中で高水準だが、スイス政府はこれをさらに引き上げる必要があると考えている。その理由の一つは、年金制度を将来的にも維持可能なものとするためである。長寿命化と金利低下が年金財政を圧迫していることへの対策として、スイス政府は2014年11月に「老齢保障2020」と名付けた包括的な改革案を議会に提出した。ここには公的年金と企業年金の年金受給開始年齢を男女とも一律65歳とすること、個々人が年金受給開始年齢を62歳から70歳の間で選択できるような柔軟な年金制度とすること、年金財源を補填するために付加価値税の税率を最高1.5%引き上げることなどが盛り込まれている。
◆もう一つの理由は、2014年2月9日の国民投票でスイスへの移民流入数に上限を設ける方針が採択され、今後の労働力不足が懸念されているためである。ドイツやイタリアほどではないが、スイスでも高齢化が進んでいる。移民流入数が制限される見通しとなったことで、国内で活用されていない労働力の発掘が課題となり、その一環で中高年の雇用促進が改めて注目されているのである。
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