サマリー
◆他の先進国と同様、シンガポールでも高齢化が進展している。65歳以上の高齢者人口の増加ペースは加速し、今後は日本と同等、あるいはそれ以上のスピードで高齢社会、さらには超高齢社会への一途を辿ることが予想される。
◆65歳以上の高齢者人口が増える中、生産年齢人口の増加は緩やかになりつつある。政府は経済発展を維持するために高齢者を中心とした雇用促進策を講じてきた。この10年間で50歳以上の全ての年齢階層の労働参加率が着実に上昇していることから、政府の対策は一定の成果を上げていると捉えることができるだろう。
◆高齢求職者の就労動機の4分の3は家計の必要性によるものである。高齢者の勤労月収が低いレンジに集中しているのは、加齢に伴いパートタイムの割合が増え、また、単純な作業に従事する労働者の割合が大きいことが要因とみられる。求職者の約7割がパートタイムによる就業を希望しており、体力的に可能な範囲で限られた時間を就労に充てるという働き方が多数派のようだ。それでも不十分な場合は、子供に頼る、あるいは個人の貯蓄を切り崩しながら生活するスタイルが主流となっている。
◆高齢者の家計状況が加齢とともに厳しくなるのは、年金制度(Central Provident Fund)の仕組みにも要因があるとみられる。それは就業者を対象とした個人ベースの積み立て方式によるものであり、働かなければ豊かな生活を送ることが難しく、比較的豊かな階層を対象に制度設計された点が課題となってきた。働くことで自立を促すインセンティブを盛り込んだ制度ではあるが、高齢者の中でも特に就労が困難になった年齢の高い階層にとっては、決して充実した制度とはいえない。近年、政府が手厚い仕組みへと制度の見直しを進めていることは、危機意識の表れといえるだろう。
◆雇用機会の提供こそが福祉であるとする政府のポリシーどおり、近年は高齢者の就労が促され、老後の自立に向けた政策に力を入れている印象を受ける。持続的な経済発展のために労働力の確保が課題となる一方、移民等の外国人労働者への依存には異論も少なくない。こうした中、高齢労働者の存在はますます重要性が高まると考えられる。
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