サマリー
◆近年の国民医療費の伸びの大部分は、高齢者医療費で説明できる。高齢者医療費は高齢患者1人当たりの医療費増加と高齢者数の増加で増えている。制度上、高齢者医療費が増加すれば、現役層と企業の負担が増加する。現在、現役層の保険料からの後期高齢者支援金は5.3兆円に達している。公費負担(税からの移転)の5.8兆円の多くの部分も現役層(と将来世代)が負担しているものと捉えられる。高齢者医療費をどうコントロールするかが課題解決のカギだが、本稿執筆時点で後期高齢者医療制度廃止後の姿は十分に見通せない。
◆各種の医療保険者の中で、従来は財政状況が比較的良好と考えられてきた健康保険組合も、深刻な財政問題を抱えるに至っている。健保組合における財政悪化の原因も高齢者医療への拠出拡大である。健保組合の場合はそれだけにとどまらず、国庫や他の保険者の負担の実質的な肩代わりを、いわば便宜主義的に求められる傾向が強まっているようにみえる。負担能力の観点からの公平性について一定の理解をすべきとはいえ、大企業における労働コストの急激な上昇が生産活動や日本経済に与える影響という視点からも議論が必要だろう。
◆高齢者医療費については、患者自己負担や保険料負担等についてまずは本則通りとし、また、自己負担の引上げや受診時定額負担の導入などによってコスト意識を国民全体で共有することが求められる。また、健保組合など保険者の機能と役割を、被保険者(加入者)との連携という観点から強化し、国民医療費の増加を長期的に抑制するような健康増進政策の推進が望まれる。生活習慣病対策が国民的課題となっている中、将来の高齢者である現在の若・壮年層の健康を維持し、国民一人ひとりの意識改革を促す上で、保険者に期待される役割は大きい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
失業リスクが偏在する脆弱な雇用構造
雇用構造がもたらす必需的品目の需要増加と不要不急品目の需要減少
2012年08月10日
-
超高齢社会で変容していく消費
キーワードは「在宅・余暇」「メンテナンス」「安心・安全」
2012年08月10日
同じカテゴリの最新レポート
-
令和9年度介護報酬改定に向けた注目点
改革工程に掲げられた重要論点の具体化が求められる
2026年06月29日
-
iDeCoは広がったのか-加入実態と残る課題
2026年4月加入者数395万人、12月制度改正に注目
2026年06月16日
-
高齢者医療費自己負担への資産勘案に関する主要論点の整理
『大和総研調査季報』2026年春季号(Vol.62)掲載
2026年04月24日
最新のレポート・コラム
-
データサイエンスを踏まえた年金数理理論の人的資本分析への発展可能性
新たな退職率算定方法による退職要因分析への応用
2026年07月17日
-
AI時代に自社のサイバー対策は正解なのか?
~Claude Mythos騒動を受けた各企業の対応を確認する~
2026年07月17日
-
CPIの2025年基準への改定による影響
コアCPIの前年比上昇率は0.0~▲0.3%pt程度の下方改定か
2026年07月16日
-
中国:26年2Qは4.3%成長、内需が急減速
4月~6月は政府成長率目標の下限を下回る
2026年07月16日
-
AI時代の競争力を生むのは誰か? ~シリコンバレーとシアトルが示す「人材エコシステム」の力~
2026年07月17日
よく読まれているリサーチレポート
-
中国経済見通し:泥沼化する不動産不況
低迷する内需。財政出動・さらなる金融緩和への期待が高まる
2026年06月22日
-
ナフサ問題がもたらす日本経済の不安要素
物価上昇は避けられず、供給不足が生じればさらなる経済下押しも
2026年06月15日
-
第229回日本経済予測(改訂版)
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年06月08日
-
「成長投資ガイダンス」の解釈とその活用法
資本コストを上回る資本収益性の確保は価値創造(EP)の前提条件
2026年06月17日
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
中国経済見通し:泥沼化する不動産不況
低迷する内需。財政出動・さらなる金融緩和への期待が高まる
2026年06月22日
ナフサ問題がもたらす日本経済の不安要素
物価上昇は避けられず、供給不足が生じればさらなる経済下押しも
2026年06月15日
第229回日本経済予測(改訂版)
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年06月08日
「成長投資ガイダンス」の解釈とその活用法
資本コストを上回る資本収益性の確保は価値創造(EP)の前提条件
2026年06月17日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日

