サマリー
◆中東情勢の悪化による原油高が続く中、インフレ圧力の高まりを背景とした米国経済への悪影響が懸念されている。他方で、トランプ大統領は原油高は米国にとって恩恵があると主張している。米国はシェール革命を背景に産油国化し、現在では原油の純輸出国となっていることが、トランプ大統領の主張の根拠といえよう。
◆しかし、エネルギー関連産業の付加価値や雇用者数の割合は全体の中で小さく、原油高の恩恵は経済全体には波及しにくい。また、米国の精製設備は主に重質油向け、一方で国内生産の中心は軽質油という構造的ミスマッチがあるため、純輸出国であっても原油輸入を継続せざるを得ず、原油高は輸出額と同様に輸入額も押し上げる。そして、家計部門では、ガソリンや光熱費などエネルギー関連支出の比率が高い低中所得層を中心に個人消費に対する下押し圧力がかかり得るだろう。
◆原油高の景気への悪影響が懸念されれば、財政・金融政策による支援が期待される。もっとも、インフレ懸念が高まれば、FRBの金融緩和余地は狭まることになる。FRBは、雇用・景気を下支えしたい一方でインフレ抑制を考慮せざるを得ないというデュアルマンデート(雇用の最大化と物価の安定)をめぐるジレンマに陥っているといえる。こうした中で、トランプ減税2.0による所得税還付は、個人消費を下支えすると見込まれる。ただし、税還付は例年5月に一巡することから、下支え効果は一時的なものとなる可能性が高い。年央以降に向けて追加的な政策対応が講じられなければ、家計の財務状況は悪化に向かうことも想定される。5月前後までに中東情勢が安定化するか否かが、米国経済の下振れリスクを考える上での一つの目安となろう。
◆では、中東情勢の悪化・原油高が目安の5月を越えて継続した場合はどうか。過去の経験則では、原油価格が前年比+50%以上で8カ月以上継続した場合、景気が大幅に落ち込む傾向がある。現在に当てはめれば2026年10月が目途だ。産油国になった米国は、原油高への耐久力が多少は上がったかもしれないが、足元は雇用環境の一部に弱さが見られるほか、プライベート・クレジットをめぐる懸念といった金融面の脆弱性も抱えている。原油高が長期化すれば、景気の大幅悪化リスクが高まる点には注意が必要だ。
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