第225回日本経済予測

人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証

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2025年05月22日

サマリー

  1. 実質GDP成長率見通し:25年度+0.7%、26年度+0.9%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は25年度+0.7%、26年度+0.9%(暦年ベースでは25年+0.9%、26年+0.9%)と見込む。トランプ米政権の高関税政策(トランプ関税)で不確実性が大きいものの、春闘での高水準の賃上げ継続や物価上昇率の低下などにより、実質賃金(1人あたり雇用者報酬)は前年比プラス圏で推移しよう。CPI上昇率の基調は同+2%程度で安定する見込みだ。所得環境の改善や政府の経済対策、インバウンド需要の増加などが日本経済を下支えしたり、押し上げたりするとみている。ただし、トランプ関税の動向や、それが国内外の経済活動に及ぼす影響には引き続き警戒が必要だ。
  2. 論点①:2040年度に向けた日本経済の長期展望:人口減少下の日本経済は供給力の大幅な強化が必要だ。健康・就労継続による高年齢者の活躍や、外国人労働者の積極的な受け入れなどにより、GDPは約86兆円押し上げられる。資本ストックは約250兆円不足しており、限界生産性の高いIT機器やソフトウェア、人的資本などへの投資拡大の余地は大きい。宿泊・飲食業や介護業などを中心に資本装備率の引き上げも必要だ。労働力の多様化や無形資産への投資拡大はTFP向上にもつながる。40年度を見据えて3シナリオを作成すると、実質GDP成長率は「衰退シナリオ」で年率▲0.5%、「現状投影シナリオ」で同+0.3%、「高成長シナリオ」で同+1.5%と見込まれる。高成長シナリオの実現に向け、①国内の「潜在力」を活かす、②賃上げと設備投資の好循環、③自由貿易の推進・オープンな国、④社会保障・財政との一体的な取り組み、といった4つの観点が重要だ。
  3. 論点②:必要な社会保障給付の維持と保険料率の安定化を両立せよ:現状投影シナリオの経済の下、現行制度のままでは、高齢化や医療の高度化による医療・介護費の増加により、24年度現在29.6%の社会保険料率は40年度には32.9%に上昇する。また、年金の所得代替率は同期間で61.2%から52.3%に低下する。必要な社会保障給付を維持しつつ、社会保険料率を安定化させるためには、「賦課ベース拡大」と「給付費適正化」が必要だ。当社の試算では、年金・医療・介護の全分野で「超改革」を行った場合、国民が医療の高度化の恩恵を受け年金の給付水準を維持しつつ、40年度の社会保険料率を25.6%(高成長シナリオ)~29.2%(現状投影シナリオ)と、現在よりも低い水準で安定化させられる結果となった。こうした道筋を示せれば、現役世代の将来不安は大きく低減し、家計の可処分所得と消費は向上し、経済の好循環が動き始めるだろう。
  4. 論点③:財政の持続可能性を高めるには?:高成長シナリオを実現しても、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は40年度にGDP比で▲3.6%となり、公債等残高(GDP比)も219%に上昇すると試算される。同年度のPB(GDP比)が▲7.0%に悪化する衰退シナリオでは、金利の上振れにより、公債等残高(GDP比)が300%超に達するリスクもある。財政の持続可能性を高めるためには、まずはPB黒字化を達成すべきだ。そのためには補正予算の平時化や、税・社会保障制度の一体的な改革を通じた歳入増、財政規律の強化などを図る必要がある。デジタル化による行政の効率化、広報活動や見える化を通じた国民の理解も必須だ。40年度の公債等残高(GDP比)は、PB赤字が解消されれば衰退シナリオでも193%へと低下し、PB(GDP比)が2%の黒字となれば164%になる。

【主な前提条件】
(1)名目公共投資:25年度+1.4%、26年度+1.7%
(2)為替レート:25年度144.5円/㌦、26年度144.5円/㌦
(3)原油価格(WTI):25年度62.5ドル/バレル、26年度62.6ドル/バレル
(4)米国実質GDP成長率(暦年):25年+1.6%、26年+1.7%

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