戦後の経済復興期には、経済発展に伴う公害の発生が深刻な事態となり、公害の防止と自然環境の保護を総合的かつ計画的に進めるべく、「公害対策基本法」(1967年)と「自然環境保全法」(1972年)が制定され、その後の環境行政の基本となった。しかし、1990年代になると、自動車の排気ガス、生活排水、生活ゴミなどの日常生活からの排出物や増大するエネルギー消費などが環境にとって大きな負荷となり、都市化や近代化の広がりに伴う自然環境の破壊や野生生物の絶滅が危惧される状況もみられた。また、気候変動などの地球規模での環境問題も認識され、従来の枠組みを超えた新たな基本法が求められた。このような中、政府から中央公害対策審議会及び自然環境保全審議会に対して「地球化時代の環境政策のあり方について」の諮問があり、両審議会の合同部会において検討が進められ、「環境基本法制のあり方について」(1992年)が答申された。この答申を踏まえ、翌93年に環境基本法案が国会に提出され成立するとともに、公害対策基本法は廃止された。
環境基本法(※1)では、環境保全の基本理念として以下の3点を挙げている(第3条~第5条)。
- ①環境の恵沢の享受と継承等
- ②環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等
- ③国際的協調による地球環境保全の積極的推進
環境基本法は、国、地方自治体、事業者、及び国民の責務について定めており、事業者は、公害を防止し自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務があり、国民も日常生活に伴う環境負荷の低減に努めなければならないとしている(第6条~第9条)。環境保全の指針としては、以下の3点が掲げられている(第14条)。
- ①環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されること
- ②生物多様性の確保が図られ、多様な自然環境が自然的社会的条件に応じて体系的に保全されること
- ③人と自然との豊かな触れ合いが保たれること
政府には、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための「環境基本計画」と健康保護と生活環境保全の上で望ましい「環境基準」を定めることが求められている(第15条~第16条)。また、公害防止計画、環境影響評価、経済的措置、国際協力等の国や地方自治体の施策についても定められている(第17条~第36条)。費用負担等については、公害等を発生させた主体による原因者負担と、自然環境の保全事業等により利益を受けた主体による受益者負担の原則が示されている(第37条~第38条)。このほか、環境保全のための組織として、環境省に中央環境審議会を置くとともに、特別の機関として公害対策会議を置くこととしている。また、都道府県や市町村にも、審議会その他の合議制の機関を置くことが定められている(第41条~第46条)
なお、環境基本法は、2012年6月に成立した「原子力規制委員会設置法(※2)」の附則に盛り込まれる形で改正されており、放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置についても、環境基本法の対象に含まれることとなっている。

(※1)「環境基本法」法令データ提供システム
(※2)「原子力規制委員会設置法」原子力規制委員会
(2012年7月31日掲載)
(2013年7月31日更新)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日