水質汚濁防止法は、生活排水を「炊事、洗濯、入浴等人の生活に伴い公共用水域に排出される水(排出水(※1)を除く)」と定義している。しかし、一般には、炊事、洗濯、入浴などによる排水(雑排水)とトイレから出る排水(し尿)とを合わせて、生活排水とされることが多い。浄化槽法(※2)では、「浄化槽によるし尿及び雑排水の適正な処理を図り、もつて生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与すること」が目的とされている。生活排水を処理する方法としては、浄化槽による処理と下水道による処理が一般的になっているが、し尿については、汲み取り式による処理も行われている。浄化槽には、主に水洗トイレから出る排水だけを処理する単独処理浄化槽と水洗トイレの排水と雑排水を併せて処理する合併処理浄化槽がある。しかし、単独処理浄化槽でも、雑排水は未処理で浸透・放流されることが多いため、平成12年の浄化槽法改正により、浄化槽の定義から単独処理浄化槽が削除され、浄化槽の新設時には合併処理浄化槽の設置が義務づけられている(※3)。
一方、公共下水道が設置されている地域では、その土地の下水は公共下水道に流入させることが原則となる。下水道法(※4)では、汚水(生活若しくは事業に起因し、若しくは付随する廃水)と雨水を合わせて下水と定義しており、下水道は下水を排除するために設けられる管渠や下水を処理するために設けられる処理施設等の総体を指す。下水道には、汚水と雨水を別々の管路で流す分流式と両方の水を一つの管路で流す合流式があり、分流式では雨水は処理せずに河川等に排出し、汚水のみを処理施設で処理する。一方、合流式では、平常時には一本の管路で雨水と汚水の両方を処理施設まで送るが、一定量以上の雨水が管路に流れ込むと、雨水吐などと呼ばれる排出口から雨水と汚水が未処理のまま河川等に排出される場合がある。

平成23年度末現在では(※5)、下水道処理人口は約9,355万人とされており、総人口(1億2,335万人)に対する普及率(下水道処理人口普及率)は75.8%となっている 。また、下水道以外の排水施設や浄化槽等を合わせた汚水処理人口は1億811万人となっており、汚水処理人口普及率は87.6%とされている。しかし、見方を変えれば、およそ1,500万人分の生活排水が、地下への浸透や河川等への放流によって処理されている可能性があることになる。また、平成21年度末現在では、全国の191都市で合流式下水道が採用され、合流式による下水道処理人口は2,400万人を超えているという(※6)。年間に使用される130億㎥余りの生活用水のほとんどが生活排水となっているとすれば、生活排水の未処理部分が、地下水や河川・湖沼、海洋等の環境に与える影響は小さくないであろう。
(※1)排出水とは、特定施設を設置する工場又は事業場から公共用水域に排出される水を指す。
(※2)「浄化槽法」法令データ提供システム
(※3)「浄化槽法の一部を改正する法律について」環境省
(※4)「下水道法」法令データ提供システム
(※5)「平成23年度末の汚水処理人口普及状況について」国土交通省
(※6)「下水道(合流式下水道の改善)」国土交通省
(2013年3月29日掲載)
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