2012年09月28日
サマリー

環境基本法の旧法にあたる「公害対策基本法」(1967年)が制定された時には、既に「原子力基本法」(1955年)や「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」(1957年)等により、放射性物質による汚染の防止等に関する措置が定められていた。そのため環境基本法でも、放射性物質に関する規制は原子力基本法その他の関係法律に委ねることとされ、循環基本法等の法律でも放射性物質への適用が除外されてきたものとみられる。しかし、原子力基本法その他の関係法律では、周辺環境に放射性物質が大量に放出される事態は想定されていないなど、昨年の原子力発電所事故により「法の空白」が改めて認識されていた(※3)。今回の改正により、法の空白が順次埋められていくことが期待される。
環境基本法では、「政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする」(第16条)とされている。この規定に従えば、今回の改正により、新たに放射性物質についても環境基準が設けられることになる。放射性物質のリスクをどの程度まで許容するかについては、現在の科学的な知見に基づく判断だけでなく、多方面でコミュニケーションを重ねて、共通の理解を形成していく努力が特に重要であろう。
放射性物質が循環基本法の対象になると、循環基本法が求める3R(リデュース・リユース・リサイクル)を基本として、利用や処分などが進められることになる。しかし、循環基本法には「できる限り循環的な利用」(第6条)や「技術的及び経済的に可能な範囲で」(第7条)などの文言がみられ、循環型社会形成推進基本計画案の作成についても、「資源の有効な利用の確保に係る事務を所掌する大臣と協議する」(第15条)ことが定められている。これらの規定が、かつて公害問題を深刻化させる一因となった経済調和条項のように取り扱われることのないよう、注意する必要があろう。また、放射性廃棄物の処分については、世代を超えた極めて長期的な視野を持つ必要があることも、認識しておくべきであろう。
今回改正された環境基本法と循環基本法に限らず、環境汚染の防止等に関わる各法律でも、これまで放射性物質やその汚染は適用の対象外とされてきた。しかし、放射性物質が大量に放出されれば、その汚染は、大気、水、土壌、海洋など、幅広い範囲に大きな影響を及ぼすことが明らかになっている。これらの各法律についても、環境基本法や循環基本法が目的とする「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保」に寄与するよう、適切に見直しを進めることが望まれる。

<関連用語>
・「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法・廃掃法)」
・「資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効利用促進法・改正リサイクル法)」
(※1)「『原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案』及び『原子力安全調査委員会設置法案』の閣議決定について」平成24年1月、内閣官房
(※2)「『原子力規制委員会設置法』について」平成24年6月、内閣官房
(※3) 「第177回国会 経済産業委員会農林水産委員会環境委員会連合審査会 第1号」江田国務大臣(環境大臣)発言 国会会議録検索システム
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