サマリー
◆2024年の衆議院議員総選挙で自由民主党・公明党の与党が過半数割れとなり、国民民主党の政策への注目度が高まっている。本レポートでは、国民民主党が掲げる課税最低限「103万円の壁」引上げについて、実現した場合の家計と財政への影響について試算する。
◆所得税は課税最低限やブラケット(各税率が適用される年間所得の金額)が名目で固定されているため、物価や賃金の上昇率を上回って所得税額が増加するブラケットクリープが生じる。ブラケットクリープには、物価上昇率と同率だけ課税最低限を引上げること(インフレ調整)で対応できる。直近、所得税のインフレ調整が行われたのは1995年である。
◆国民民主党は、課税最低限を1995年からの最低賃金上昇率に基づき73%引上げること(103万円→178万円)を主張している。ただし、課税最低限の引上げ幅については、他に1995年からの物価上昇率(10%)に基づく考え方もある。また、課税最低限の引上げ方法についても、基礎控除の引上げのほか、給与所得控除の下限の引上げや、両者の組み合わせで行う方法もある。
◆本レポートでは、課税最低限の引上げ幅、引上げ方法につき様々なケースを想定して、家計および財政への影響につき試算した。国民民主党の主張するケースでは、家計に対しては、年収500万円の世帯で年13.3万円の減税となるものの、財政は年7.3兆円の減収となる。
◆課税最低限の引上げ方(基礎控除と給与所得控除最低限のバランス)次第で、今後の所得税のあり方は大きく変わることになる。課税最低限の引上げに当たっては、財政への影響や所得再分配のあり方など「あるべき姿」を見据えて、大局的な議論をもとにした政策決定が求められるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
2012~2023年の家計実質可処分所得の推計
物価上昇の影響で全世代の実質可処分所得が減少
2024年10月22日
-
金融所得課税を含む所得税の垂直的公平性の国際比較
「1億円の壁」は米英独にも共通して確認できる現象
2022年03月31日
同じカテゴリの最新レポート
-
道府県民税利子割への清算制度導入を提言
令和8年度税制改正での実現は不透明な情勢
2025年08月13日
-
2012~2024年の家計実質可処分所得の推計
2024年は実質賃金増と定額減税で実質可処分所得が増加
2025年04月11日
-
「103万円の壁」与党修正案の家計とマクロ経済への影響試算(第5版)
所得税の課税最低限を160万円まで引き上げる与党修正案を分析
2025年03月19日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日