サマリー
◆本稿では、トランプ大統領が次期FRB議長候補として指名したケビン・ウォーシュ氏について、その主張と金融政策運営への影響を分析する。ウォーシュ氏は、FRBがこれまで本来の役割を超えて権限と責任を拡張してきたと批判しており、こうした姿勢が中央銀行の独立性と正当性を損ねたと考えている。ウォーシュ氏の主張は、物価の安定と雇用の最大化というデュアルマンデートに基づく伝統的な金融政策へ回帰すべきだという点に集約され、その象徴がFRBのバランスシート縮小(QT)である。この考え方は、外交・安全保障分野で責任範囲の縮小と伝統への回帰を掲げるトランプ大統領の「ドンロー主義」のFRB版とも解釈できよう。
◆もっとも、実際の政策運営においてバランスシートの本格的な縮小を進めることは容易ではない。過去のQTの経験から、準備預金の減少は短期金融市場のタイト化や市場機能の低下を招きやすく、近年もその懸念からQT停止や国債の追加購入に転じてきた経緯がある。このため、ウォーシュ氏が議長に就任しても、市場の安定を犠牲にしてまで急速な縮小を行うとは考えにくい。
◆ウォーシュ氏は利下げの必要性を認めており、焦点は利下げの幅にある。QTの実施が困難であるとともに、現状のFF金利は中立金利の上限付近にあり、景気が底堅い中では、中立金利に向けた緩やかな利下げが最も現実的なシナリオとなろう。ウォーシュ氏自身も、生産性向上を背景に米国経済の底堅さを指摘しており、大幅利下げを正当化する前提には立っていない。一方で、QTを伴わずに大幅利下げへ踏み切る「手のひら返し」を起こす可能性もある。その場合、FRBに対する政治的介入への懸念が高まり、期待インフレ率のアンカー機能が損なわれ高インフレが定着するリスクが強まる。
◆総じて、ウォーシュ氏は理念としてはFRBの原点回帰を掲げつつも、現実の制約の中では従来のFOMC路線に近い、慎重で漸進的な政策運営に落ち着く可能性が高い。ただし、その姿勢をどこまで維持するのか、あるいはトランプ大統領の意向を受けて転換するのかは不透明であり、今後予定される上院公聴会での発言が、同氏の真意を見極める上で最大の注目点となる。
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