サマリー
◆2025年5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月差+13.9万人と市場予想(Bloomberg調査:同+12.6万人)を上回ったものの、前月から小幅に減速した。また、雇用者数の過去分は大幅に下方修正された。他方で、雇用者数の3カ月移動平均は3月をボトムに2カ月連続で加速しており、均して見れば底堅く推移している。失業率については、前月から横ばいの4.2%と市場予想通りの結果となった。失業率を小数点第2位まで含めて見れば4カ月連続で上昇しているものの、上昇ペースは緩やかである。トランプ政権の追加関税措置による影響が懸念される中、5月の雇用統計は雇用環境が緩やかな悪化に留まっていることを示唆している。
◆もっとも、景気の下押し要因となり得る追加関税措置については、不確実性が高いままだ。不確実性の高さによって企業の様子見姿勢が続くことで新規雇用が抑制されたり、既存の追加関税措置に伴うコストアップによって、レイオフ・解雇が増えていったりすることが雇用環境を巡るリスク要因だろう。
◆こうした中で、金融政策の先行きに関して、6月17・18日のFOMCは政策金利の据え置きが想定される。追加関税措置が景気・雇用に悪影響を及ぼすリスクはある一方で、足元の景気・雇用関連指標で企業・消費者マインドといったソフトデータ以外では、急激・大幅な悪化傾向はほとんど見られない。また、小売業者が徐々に価格引き上げを示唆している中で、インフレ率が再加速する恐れもある。今回の雇用統計でも雇用環境が緩やかな悪化に留まっていることを踏まえれば、FRBは利下げを急ぐことはないだろう。もっとも、FOMC前にはインフレ指標(6月11日にCPI、12日にPPI)や、FOMC当日の17日には小売売上高や鉱工業生産が公表される。政策金利は据え置きであっても、指標の結果次第によって、経済見通しやドットチャート、パウエルFRB議長の記者会見等で、FOMC参加者のスタンスに変化が見られるかには注意を要する。
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