サマリー
◆8月22-24日に、カンザスシティ連銀主催でワイオミング州ジャクソンホールでの金融政策に関するシンポジウム(以下、ジャクソンホール会議)が開催される。ジャクソンホール会議では、中銀関係者や研究者などが集まり、その時々の金融政策の注目テーマに関して議論される。今回のシンポジウムのテーマは、「金融政策の効果と波及の再評価」だ。これまで金融引き締めを続けてきたFRBが、それを総括するようなテーマといえる。
◆ジャクソンホール会議の最大の注目材料は、利下げに関するFRBの最新の見解だ。市場は米国の景気悪化を懸念し、2024年内に1.00%pt弱の利下げを織り込んでいる。他方で、足元の景気指標は、過去のサーム・ルール該当初月や景気後退期間に比べて良好で、景気後退からは依然として距離がある。市場が大幅利下げを織り込む契機となった雇用統計に関しても、ハリケーンの影響が大きいと考えられる。FRBにとって景気悪化のリスクが著しく高まったとは認識しづらいだろう。そして、インフレ指標に関しては高止まりのリスクが残る。これらを踏まえれば、ジャクソンホール会議でもFRBが近い将来における大幅利下げを示唆することを期待すべきではないだろう。
◆足元で市場の利下げ期待が高まっている背景には、FRBが利下げはデータ次第というスタンスを続けてきたことで、市場が景気指標の結果に翻弄されやすいことがある。こうした中で、ジャクソンホール会議ではFRBと市場の間のコミュニケーションの改善が議論されると見込まれる。とりわけ、FRBがメインシナリオに加えて代替シナリオを提示するシナリオ分析の活用に衆目が集まる。
◆FOMC参加者もシナリオ分析の活用に対してポジティブな見解を有しており、中でもウォラーFRB理事がシナリオ分析を通じた金融政策運営の見通しを示している。こうしたシナリオ分析は金融・資本市場の混乱の発生およびFRBが混乱への対応を迫られる可能性を抑制する上で有益となりうる。ジャクソンホール会議は、こうしたシナリオ分析の活用といった議論も含めて、FRBと市場との間のコミュニケーションの改善に向けた取り組みの方向性を探る機会となるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国最大手銀行のレバレッジ比率緩和へ
トレーディング勘定で保有する米国国債をSLRの分母から除外?
2025年07月16日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
-
非農業部門雇用者数は前月差+14.7万人
2025年6月米雇用統計:民間部門の雇用者数は減速も、失業率は低下
2025年07月04日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日