サマリー
◆底堅い個人消費やインフレ率の緩やかな減速を背景に、市場の早期利下げ期待は足元で低下している。FRBにとっても利上げも利下げもせずに様子見をしながら、データを確認する時間的な余裕が生まれている。一方で、注目はFRBの国債等の保有減に伴うバランスシートの縮小(QT)のペースの減速へと移っている。QTに注目が移った背景には、銀行の手元流動性の低下に対する警戒感が強まっていることが挙げられる。
◆QTによる市場からの資金吸収は、2023年5月までは国債発行の減少、2023年6月以降はMMFの国債投資の増加(リバースレポ(RRP)の減少)で賄われてきた。しかし、MMFが国債投資を増やす余地が減ったことで、今後はその他の投資家による国債投資の増加(=銀行の準備預金減)が必要となる。銀行の準備預金の減少は、手元流動性の低下と人々から認識され、現金の取り付け騒ぎの発端となりかねない。
◆銀行が手元流動性を積み増す際に活用してきたFRBの流動性供給プログラム(Bank Term Funding Program)が2024年3月に期限切れになることも、銀行にとっては向かい風といえる。銀行の手元流動性の低下やそれに伴う市場、景気への影響に対して、FRBの中でも警戒感が強まっており、1月末の次回FOMCでのQTのペース減速に関する議論の動向が注目される。
◆なお、本稿の後半部分には米国経済に関する中期見通し(2024年~2033年)を掲載している。10年間のうち、後半5年間は潜在成長率前後の経済成長が続くと見込むが、前半5年間は引き締め的な金融環境やトランプ減税の期限切れ、そしてその反動増などから、成長率の変動幅が大きい。また、金融政策に関しても、2024年以降は利下げへと転じることが予想される一方、利下げを巡ってはインフレの高止まりリスクや景気の急激な腰折れリスクなど不確実性が高い点に注意を要する。
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